旅の3日目。2日目はこちら⇒南アルプス北部大縦走5日間【甲斐駒ヶ岳】急峻な岩稜の貴公子 Day2 2024.7.29
この日は仙丈ヶ岳3,033mに登頂し、仙丈ヶ岳と塩見岳を繋ぐ仙塩尾根に足を踏み入れる。大仙丈ヶ岳を越え、伊那荒倉岳、独標などの小ピークをいくつも越え、野呂川越2,290mまで下り、三峰岳2,999mに登り返し、熊ノ平小屋2,500mまでを歩くコースタイム9時間の長ーい一日。7/30(火)
◇ 旅の行程 ◇
1 小淵沢 ⇒(登山タクシー)⇒ 尾白川渓谷 ⇒ 七丈小屋
2 七丈小屋 ⇒ 甲斐駒ヶ岳 ⇒ 摩利支天 ⇒ 仙水峠 ⇒ 北沢峠 ⇒ 小仙丈ヶ岳 ⇒ 仙丈小屋
3 仙丈小屋 ⇒ 仙丈ヶ岳 ⇒ 大仙丈ヶ岳 ⇒ 三峰岳 ⇒ 熊ノ平小屋
4 熊ノ平小屋 ⇒ 北荒川岳 ⇒ 北俣岳分岐 ⇒ 蝙蝠岳往復 ⇒ 北俣岳分岐 ⇒ 塩見岳 ⇒ 塩見小屋
5 塩見小屋 ⇒ 三伏峠 ⇒ 鳥倉登山口 ⇒(登山バス)⇒ 伊那大島
山の女王
この日の天気はくもりから午後は雨。出発前から唯一怪しかった一日。5日も山に入っていると1、2日は雨に降られるらしい。ただしこの日進む仙塩尾根は大部分が樹林帯、雨でもきっと大丈夫。
滑落おじさま(前日ブログ参照)は天気の予想もお手の物で、この日は高曇りで山々は見渡せるのではないか、もしかしたら日の出も見えるかも、お昼からの雨も一瞬で長くは続かない、と言っていましたが、果たして実際はいかに?!
仙丈小屋のマットは七丈小屋と同じもので、程よい硬さ。どこからともなく聞こえるイビキの音色で眠れなかったので耳栓をした。快眠。朝の起床は午前3時、2階の寝室からそっと抜け出し、1階の食堂へ移動し身支度。
午前4時半前、出発。小屋から15分くらいの場所に最高の日の出スポットがあり、太陽と標高1位の富士山、2位の北岳が並んで見られるとのこと。辺り一面雲の中なのだが、万が一の可能性に賭け、日の出の時間に合わせて行ってみる。
しかし案の定何も見えずに通過。この日は風もかなり強く、仙丈ヶ岳までの稜線を歩きながら吹っ飛ばされるのではないかと不安に襲われる。初心者の頃だったら間違いなく泣きべそ撤退だ。昨年強風に見舞われた那須の茶臼岳でプロ兄さんに教えてもらった強風時の歩き方を思い出し、一歩一歩踏み出していく。しっかりポールを突き、ゆっくりだが着実に前に進む。
午前5時前、小屋から約30分で仙丈ヶ岳山頂へ。日本第10位の高峰、標高3,033m。日本百名山、これで51座目。この日は強風視界ゼロ。でも前日に十分美しい姿を堪能したので良しとする。
前日の急峻な岩稜の甲斐駒ヶ岳とは違い、ゆるやかで穏やかな仙丈ヶ岳。「南アルプスの女王」と称される女性的で優美な姿の山。北沢峠からなら比較的短いコースタイムで登頂できるし、ここは友人などと楽しく登るには最適な山だなと思う。なぜか甲斐駒とセットで登ってみたかった仙丈、無事に登頂させてくれてありがとう。
そしてここからが、念願の仙塩尾根の始まり。この入口に今立てていること、ドキドキワクワク嬉しい!まずは大仙丈ヶ岳を目指します。
霧中の稜線
霧の中、一歩を踏み出す。この先どんな景色が、どんな体験が待っているのだろうか。そこに目的があり、進むと決めていれば、視界が悪かろうが疲れていようが人は進む。私は仙塩尾根を踏破する山ガール、だから前進あるのみ。
前日、朝に拵えたアルファ米一人前が道中で全く食べ切れなかったのを反省し、この日は行動食のみと決める。天気も良くないし。プロテインバーなどをもぐもぐしながら前へ前へと体を動かす。
視界は不良だが、足元には斜面に広がるお花畑。仙丈に来たならば大仙丈まではぜひ行かれることをオススメします。
てくてく歩いて行くと見えて来た!雲の中から大仙丈ヶ岳。
そして登頂する頃にはなんと青空が!滑落おじさまの予言通り!
午前5時半、大仙丈ヶ岳、標高2,975m。大と言っても仙丈よりは低い。小仙丈より高いという意味かな。仙丈の山頂で見られなかった景色をしばし堪能します。
これから歩く稜線はこんな感じ。半分雲の中、これもこの一瞬しか見られない奇跡の景色だ。
ここからは徐々に高度を下げつつ小ピークをいくつも越えていく。大仙丈から15分ほど歩いた斜面でライチョウ出現!こういうお天気の時に出てくるから、雷の鳥と書いてライチョウ。私の前をてくてく歩いて行くのでついていきます。
私が出会ったのは一羽。この少し先で、唯一同じ行程を進む縦走おじさまに追いつくのですが、そのおじさまはここでライチョウをもっとたくさん、親子やつがいなどを何羽も見た、とおっしゃっていました。さては蹴散らしていったな?!←これも運ですがね。
谷を挟んで見える北岳は雲の中。この先ですれ違った方、北岳から来たそうですが、山頂は爆風だったそう。
縦走おじさまの背中と稜線。ちょっとずつ雲が抜けて来た。
そしてなんと嬉しい太陽も出て来た!これから歩く稜線はこちらです!
悠か樹林帯へ
日が出て来たのでレインウェアを脱ぎ、日焼け止めを塗り、晴れの日装備で進む。大仙丈から1時間ほど進んだところからは樹林帯に突入。展望が無く単調な樹林帯の稜線、この特徴が大きくあると「地味だ」と言われてしまうのですが、私はこの南アの樹林帯がとてもとても好きだ。地味という評価ゆえに人の気配が少なく、人の力の及ばない大自然の奥深くにどっぷり浸かり、歩いて歩いて自然と一体になってしまう、私たちは自然だったと思い出すこの感覚。
見どころはたくさんある。深く静かな原生林、みずみずしい苔、美しいシダの葉、木漏れ日、足元には松ぼっくり、見上げれば空と樹々のアート。植物たちが枯れ積み重なった腐葉土はフカフカで、ゴツゴツの岩稜帯に比べて足にとても優しい。
この日すれ違った登山者は4組。ここでは挨拶だけではなく、もれなく会話が発生する。皆物好きの山好き玄人さんたちで、ここを歩くのは奇特、どこから来てどこへ行くの?と会話し励まし合うのだ。海外からの方もいた。「Have a good trip!」と言ってくれた。英語の表現は素敵だ、良い旅を、って。日本人だと「お気を付けて」と言うことが多いと思うが、私は「ご安全に」と言う。危険があるから注意してね!、という表現よりも、安全に楽しく行ってね、という表現の方が良いと思うから。でも「楽しんで!」の方がさらに良いなと思い、これから先はそう言うことにした。
すれ違うのはほんの一瞬で、ほとんどが一人の時間。歩きながらいろいろな思考や感覚が巡っては去る。沸き起こっては流れる。たまに浮かぶハッとする気付きや感謝、感動が、このブログの源になっています。
一人でいるのにこのニコニコっぷりが、楽しそうでしょ。
午前7時半、伊那荒倉岳、標高2,519m。樹林帯の中のピーク。ザックを下ろししばし休憩。
そこからちょっと下って高望池。池は枯渇とのことで、これが池の跡?
感動量産若返り工場
このあたりは倒木が多く、以前歩いた七面山~八紘嶺の稜線を思い出す。コバイケイソウの葉が道の脇を彩るところは茶臼岳~光岳の稜線を思い出す。あの時の感動した、楽しかった思い出が重なり合い、胸や顔が熱くなってくる。胸の内側で熱い風船が大きく膨らむような、その熱気が気道を伝って涙腺を刺激するような。
老化は感情から始まるそう。山には感動体験が溢れている。「派手」なところだけではなく「地味」な中にも無限の感動がある。それを感じる心があれば、感じたいと思う心があれば、いつでもどこでも胸アツの思い出を量産できれば。きっとピッチピチの若者でいられるに違いない。
小さなアップダウンが連続してあり、徐々に体力が削られていく。ポールで体を支えながら、一歩ずつ足を進めていく。前日の岩稜帯歩きで出来た肉刺がちょっと痛い。
午前8時、一瞬展望のある場所に出た。独標、標高2,499m。厚い雲が稜線にかかっている。午後から雨という予報通りになりそうな空模様だ。なるべく早く山小屋へ着くように行こう、と歩を進める。
展望の無いピーク、横川岳、標高2,478mを越えると、ここからは一気に野呂川越まで急降下。
急降下すること20分で野呂川越へ。午前9時、ここは標高2,290m。ここから左に進むと40分で両俣小屋。そっちに行けたらどんなに良いか、と思う程には疲れている。
そしてここからがこの日の試練、三峰岳へのコースタイム3時間の登り。標高にして700m。ぐぬぬ。途中すれ違った登山者さん「熊ノ平まで?大変だね。これからまだまだ登るよ。」…は、はい、知ってます…( ;∀;)
しかしここから一直線に登るわけではなく、登ったと思ったら下り、登ったと思ったら下り、が永遠かと思う程繰り返される。一生辿り着けないのではないかと不安になり、普段ほとんど見ないGPSを何度かチェックする。大丈夫、まぼろしではない。ちゃんと前に進んではいる。
前日の北沢峠からの登りと同じく、目の前の一歩に集中し、5歩進み、ポールを突き直してまた5歩進む、の繰り返しで前へ上へと頑張る。いつもは1時間歩いて立ち止まり小休憩だが、ここでは40分にして、好きなおやつやコーラを心の支えにしながら。カロリー糖質ありがとう。
そのうちにいよいよ登りっぱなしに突入し、2時間ちょっとで樹林帯を抜け、振り返って歩いてきた仙塩尾根が。仙丈は雲の中だ。
切れ落ちた狭い稜線を歩く場所も。緊張が走る。足を滑らせたら一巻の終わり。
この先で道がとても怪しい場所が。小ピークへの登りがとんでもなくキツく、岩にオーバーハングするように鎖が付いている。本当にこの悪路で合ってる?!怖さと天気の怪しさが更なる焦りを生み、不安が体中に広がる。
来た道を振り返って見てもとりあえず間違っていなさそうなので、落ち着いて鎖場を攻略。不安すぎて怖すぎて写真を撮る余裕なし。その後見えた稜線上の道を確認し、ホッと胸を撫で下ろす。
三峰岳までは急登がずっと続く。急なところは登りの方が断然良い。下りはとても辛いし怖い。ここの逆は絶対に歩きたくないなぁと思う。
雨と天国と世界
12時すぎ、三峰岳(みぶだけ)へ。標高2,999mの岩頭。本当は間ノ岳、農鳥岳、北岳が間近に見える最高の稜線歩きなのだろうけれど、今回は残念ながら雲の中。12時から雨、という予報通り、ここで雨が降り出す。ギリギリ写真を撮影した後はレインを着込む。
ここからはもう無心でとにかく山小屋を目指す。三峰岳は大岩がゴロゴロ、足を滑らせないように慎重に、でも足早に。
降り始めは「大丈夫そうかな?」と思い、まずはレインの上とザックカバーだけ。そのうちに徐々に雨脚が強くなり、レインの下を着込み、カメラをビニールに入れザックにしまう。
そして天国のような砂礫ののっぺりと広い台地の三国平に差し掛かり、「わーここの雰囲気めちゃくちゃ好きなやつだ」と思うも、横殴りの雨。後で山小屋の人に聞けば「ライチョウスポット」だったらしいのだけれど、余裕なし。何なら小走りで通過!
思っていたよりも雨が強く、レインのフードの下にそのまま被っていた防水ではないハットが前のつばからびしょ濡れになり、そこから背中も冷たくなってくる。失敗した、このままだとまずい。ただ山小屋までそんなに遠くはない、雨で気温が下がり体も動きやすくなった、とにかく進むのみ。
井川越を過ぎ、一旦稜線を後にして、熊ノ平小屋への道へ。すると地形の関係か、それとも滑落おじさまの予想通りか、雨が止んできた。焦っていた気持ちも緩んでくる。緩やかな草地を下る途中で、しまっていたカメラを取り出す。
13時半、熊ノ平小屋へ。良かった。到着は私が一番でした。ここの小屋番さんは女性で、すごく感じの良い方だった。私が到着してすぐにストーブに火を入れてくれて、濡れ物を乾かさせてくれた。この日は団体さんが来るとのことで、その方々が到着する前に一通り乾かすことが出来て感謝。
団体さんは台湾からの方々で、よくもまぁ日本人でもなかなか来ないところへようこそ。小屋番さんは英語で対応していて、こんな日本の山奥秘境の地でも英語を使わなきゃいけないなんて!グローバリズムを感じざるを得ない。私もそろそろ英語習得するか?私の語学能力の成長よりも翻訳機の進化に期待する今日この頃。
ここも美味しい南アルプスの天然水。次の塩見小屋では水場が無いそうなので、ここでしっかり補給していきます。
どこからも遠い山小屋、こういう場所が好き。
その後も雨は降ったり止んだり。夕日が見えるようなお天気にはならず。
この日ここで一緒になったお姉さまは、鳥倉登山口から一気にここまで来たそう。コースタイム12時間半、でも全然そんなにかかっていないと。早く着いちゃうから途中でのんびりコーヒー飲んできたとか。ひえ~、超健脚!百高山という、また百名山とは違うリストの山をスタンプしていくラリーに挑戦中だそうです。
ここ熊ノ平小屋では食事の提供が無く(頼めばレトルトカレーやレトルト牛丼などは提供可のよう)、ガスと食事を持って行きました。
感動の3日目が終了。三峰岳と三国平の景色が拝めなかったことが心残りだけれど、全部を見せてくれないのもまた、楽しみを先に延ばしてくれた山の計らいとでも思いましょう。疲れ具合は5日中4番目。
翌日からの天気は晴れ予報。夏の気圧配置になり、バッチリ良い天気みたいだ。
そして早くも(?)旅は折り返してしまった。汗まみれで疲れたし帰りたい半分、楽しみで楽しみで仕方なかった旅が終わってしまう寂しさ半分。果たして4日目はどんな景色が、どんな体験が私を待っている?どんな気持ちが湧き上がってくる?!Day4に続く⇒南アルプス北部大縦走5日間【蝙蝠岳・塩見岳】日本9位の高峰と美尾根へ Day4 2024.7.31