旅の2日目。1日目はこちら⇒南アルプス北部大縦走5日間【黒戸尾根】修行の日本三大急登 Day1 2024.7.28
この日は甲斐駒ヶ岳2,967mに登頂し、一旦北沢峠2,032mまで下り、そこから再び仙丈ヶ岳の尾根を登り、仙丈小屋2,885mまでを歩くコースタイム10時間の長ーいキツーい一日。7/29(月)
◇ 旅の行程 ◇
1 小淵沢 ⇒(登山タクシー)⇒ 尾白川渓谷 ⇒ 七丈小屋
2 七丈小屋 ⇒ 甲斐駒ヶ岳 ⇒ 摩利支天 ⇒ 仙水峠 ⇒ 北沢峠 ⇒ 小仙丈ヶ岳 ⇒ 仙丈小屋
3 仙丈小屋 ⇒ 仙丈ヶ岳 ⇒ 大仙丈ヶ岳 ⇒ 三峰岳 ⇒ 熊ノ平小屋
4 熊ノ平小屋 ⇒ 北荒川岳 ⇒ 北俣岳分岐 ⇒ 蝙蝠岳往復 ⇒ 北俣岳分岐 ⇒ 塩見岳 ⇒ 塩見小屋
5 塩見小屋 ⇒ 三伏峠 ⇒ 鳥倉登山口 ⇒(登山バス)⇒ 伊那大島
来る日を迎える
寝具のマットが良い感じの硬さで、いつも山小屋のせんべい布団だと腰や脚周りの骨が痛くなってしまう私にしては快眠できた。朝の起床は午前3時、2階の寝室からそっと抜け出し、1階の食堂で身支度。食堂には常夜灯がありとてもありがたかった。干していた濡れ物も朝には乾いていた。何かと優しい山小屋さん。花谷さんありがとう。
私が泊まった本館では早朝出発の方が多くなかったようで、午前4時過ぎ、静かに出発。まだ真っ暗で、ヘッドランプを付け慎重に進んで行く。この日の日の出は5時前、本当は八合目御来迎場で迎えたいのだが、コースタイムで1時間ほどかかるので、途中の見晴らしの良いところで見ることにする。
前日同様、急な道が続く。四肢を使いながら全身で登っていく。朝食はアルファ米。例のごとく暑さと疲労でほとんど喉を通らないので、少しずつ口に含みながら。
歩き始めて少しすると、空が白んでくる。
山での日の出は必ず見たい派だ。刻一刻と色彩を変えていく空の表情、夜が明ける喜び。朝は毎日同じように訪れるようでいて、同じではない。この瞬間は一度きりだ。
感動の瞬間を見届け、先へ。一度きりの今日を楽しんで生きましょう!
午前5時、八合目御来迎場に到着。かつての修験者たちもここで日の出を見たのでしょう。山頂が近付いてきた。
岩と花
急な登りは続く。前日の疲れはほどほどに残りつつも、足は確実に前に出てくれる。
足型がくっきり。足跡石を穿つ。何万人もの足跡がここに。私もその上に足を乗せて行きます。
急峻な岩場にも高山植物があちこちに。
山頂は目前、あと5分の場所まで来た。駒ヶ嶽神社の本社が。道中でたまたま拾った10円をお納めする(←もっと入れてけ!)。
山の貴公子
甲斐駒ヶ岳、「南アルプスの貴公子」と呼ばれる山。日本各地の「駒ヶ岳」と称する山々の中では最高峰の標高2,967m。花崗岩の白い山肌、天を衝く急峻な岩稜、男性的なゴツゴツとした姿なのに美しい山容はまさに貴公子。そのカッコイイ!姿に憧れ、山を始めた当初からいつか行きたいなと思っていた山、11年目にしてようやく辿り着いた。
午前6時半、登頂。日本百名山、これで50座目。
ちょうどガスが掛かってしまい、展望無し。と思ったら次第にガスが取れ、一面の大展望が。
正面には仙丈ヶ岳、北岳、間ノ岳、鳳凰三山から富士山。八ヶ岳に中央アルプスに北アルプスまで。遮るもののない、3,000m峰からの最高の眺めだ。自分の足で辿り着いたという思いが、最高の景色をさらに最高に格上げする。
急ぐ旅なのに、素晴らしすぎて1時間近く滞在。しかし今日のメインピークはここなので、思う存分堪能しておく。
正面に見える仙丈ヶ岳の山頂近くにあるあの小屋がこの日のゴール。あんなに遠くに辿り着けるのか。ちょっと不安になる。普通に直線距離だって近くないのに、がっつりアップダウン付きだ。あぁ山ガールの挑戦とは恐ろしいことこの上なし。
何時間でも滞在していたいのを堪え、後ろ髪を引かれながら先へ。次に目指すは摩利支天。甲斐駒ヶ岳の南に前衛としてそびえる花崗岩の巨大な岩峰、名脇役の山。ここから甲斐駒ヶ岳を眺めましょう。
砂礫の斜面を下る。一直線に向かうわけではなく、一旦西側に回り込むようにして登山道が続いている。30分ほどで山頂へ。摩利支天から甲斐駒ヶ岳山頂を望む。
突風と急登と思考
この日は風が強く、特に強風が吹き抜けるこの場所。一瞬の突風でなんと私の帽子が飛ばされた!!!大空に華麗に舞い上がる!!!
人の思考は面白いもので、「あぁ飛ばされた…!良い天気なのに帽子無いの困る。山小屋で帽子買えるかな。」と既に次の行動を考える。「えーでも悔しい、拾いに行こう。」という思いも、ほんの一瞬の間に交錯する。
舞い上がった帽子は崖下数メートルの藪の中へ。遠くまでは行っていない。下に回り込み藪の中へGo。もちろん危険そうだったら引き返すつもりで。捜索すること数分、木に引っ掛かった帽子を発見!!!良かった!!!
ここは長居不要、帽子の紐をきつく締め、足早に先へ。
この先は北沢峠から登ってくる登山者さんたちが増え、賑わいの様相。すれ違いをやり過ごしながら。岩稜の下りが続く。
北沢峠からは黒戸尾根から比べたら簡単とは言え、急峻な岩場が連続し、全然楽な山ではない。昨年まで履いていた硬い岩稜帯用のシューズから、今年は歩きやすいちょっと軟らかいエントリーモデルに戻していて、足の裏にゴツゴツの感触がより伝わってきて疲れる。体重が掛かる下りはなおさらだ。
六合目の駒津峰で午前9時。今更ながら山頂でゆっくりしすぎたあの1時間を悔やみだす。
「仙水峠から見る甲斐駒ヶ岳と摩利支天が立派だよ。」とバリおじさまにオススメされたので、当初行こうとしていた直登双児山ルートではなく仙水峠ルートへ。ここからもずっと急な下りが続く。早く終わらないかなと思う程。下から登ってくる登山者さんとあいさつを交わしながら、「これから行く人は2時間以上もこんな急な道を登るなんて大変だなぁ。」と思う。貴公子はなかなか手強い。
そして何を隠そうこの私は、この日は下って終わりではないのだ。峠に下り切って都会の賑わいに触れた後に、また登りが待っているのだ。若干の焦りとともに既に心が折れ始める。
午前10時、仙水峠に到着。キツい下りはここまで、北沢峠まで緩やかに下り始める。広いガレ場のそこかしこにケルンが積まれている。
明るい日が差し込む樹林帯の中、沢沿いを下っていく。道はよく整備されていて、まるでハイキング。高度を下げた分、暑さがじわじわと体力を削りにかかってくる。水は豊富で、冷たく美味しい。仙水小屋で水を汲ませてもらった。
午前11時、北沢峠の山小屋、長衛小屋に到着。標高2,032m。900mも下ってきてしまった。
見た目にとても綺麗な山小屋で、ランチもスイーツもビールも映えそうなものが出て来そうだ。しかしそんな素敵女子のような時間を組み込んでいないのが私という山ガール。トイレを借り、まだ食べ切れていないアルファ米を口に含み、休憩もそこそこに再びの登りに踏み出す。
葛藤の儀式
これからまた4時間、800mの登り。ここがこの日一番の、何ならこの旅一番の試練と分かっていながら、ここから先に進まなければ全てがダメになると分かっていながら、葛藤が生まれる。生んでも仕方ないと分かっているのに。無理かもしれない、行けないかもしれない。疲れで生まれる隙間を埋めるように弱気が顔を出してくる。
ただ、昨年のように本当に足が前に進まない、疲労遭難しそう、というわけではない。体力消耗度は100%近いが、どこも体は痛くない。ここで諦めてどうする?また計画して来るのか?私には出来なかったと笑ってごまかして言い訳して生きるのか?これから行けるはずの景色を見ずに生きる人生でお前は良いのか?他にももっともっと行きたい場所ややりたいことがあるだろう?来年生きている保証はないぞ。いつやるの?今でしょ!!!
とまぁ、葛藤も儀式みたいなもので。こんな気持ちすらも味わい受け入れ共に歩くのが山というものでしょう。私はそう思う。
目の前の一歩に意識を集中させ、重い体と荷物を重力に逆らい持ち上げていく。呼吸と足を合わせ、5歩進み、ポールを突き直してまた5歩進む、の繰り返し。私はまだ出来る!!!
樹林帯の尾根道、小仙丈ヶ岳を目指して歩いて行きます。勾配はそうでもなく、木の根っこが張り出した道を着実に高度を上げていく。
仙丈ヶ岳に登ったであろう、最高の景色を見たであろう登山者さんたちが大勢下りてくる。皆、どんな気持ちだったのだろう。感動のエネルギーで溢れるのだろうな。山は最高だ。
登り始めて2時間半、時刻は13時半。六合目で森林限界を超え、振り返って貴公子。この日はお天気が良く適度に強風で、ガスが掛かることもなく、長時間素晴らしい展望を見せてくれている。こんな夏の日はなかなか無い。良い一日に感謝。
そして14時すぎ、小仙丈ヶ岳に登頂。標高2,864m。お天気もバッチリ、ゴールも近付いてきて一安心、ここで長めの休憩。
命の輝き
この写真を撮ってくれたおじさま、なんとすごい経験をお持ちの方で、北アの名峰⚠ジャンダルムでへばりついていた大岩が崩落、150m滑落し手足がちょん切れたのにも関わらず生還されたそうな。奇跡的に手足を失うことも無く。膝の可動域制限はあるものの、何なら私より歩くの速かったから!たぶんその方のブログ⇒墜落の瞬間と命を守ってくれた装備品
山は危険な場所。でもそれ以上に美しく素晴らしい場所。命を懸けても行きたいんだよ。命が輝くんだよ。
命を燃やせ!
小仙丈からはもう下り。なんてことは無く、まだ高度を上げていきます。小屋への分岐まで、もう一山。
岩の間で力強く咲く花よ。
ようやく分岐を折れ、この日のゴール、仙丈小屋が見えて来た。
15時すぎ、小屋に到着。標高2,885m、お疲れさまでした。5日間中ナンバーワンに辛い一日が終わった。
ちなみに仙丈小屋では帽子売ってました、ハットもキャップも。お世話にはならずに済んだけれど。
水場は涸れる寸前。チョロチョロでも出てくれていて一安心。ここも美味しい南アルプス天然水。
食事は前日同様、栄養カロリー満点。でもバテバテで食欲減退。お肉は2切、例の滑落おじさまに差し上げた。
食欲は無くなってしまうが、かといって食べないでいると本当に潰れてしまう。山小屋での食事は私にとってある意味生命線だ。喉が食事を拒否するのだけれど、口に入れて十分に咀嚼し、無理矢理飲み込む。時にえずきながら。何の罰ゲーム?拷問か?と思って可笑しくなるが、本人はいたって真剣。
味はとっても美味しいんですよ、言っておきますが。今これ食べたいもん。
夕食後、山頂(小屋から20分)に行かない?と誘われるも、一面のガスと疲れにより辞退。夕日スポットで絶景を待つも、この日はほぼ何も見えませんでした。
滑落おじさまといろいろお話しさせてもらって楽しい一晩でした。おじさま曰く、登山歴11年目の私、一番病が重症な頃だそうです。幸せな病だなぁ。
旅は楽しいまだ2日目。順調、でも疲れた。果たして私は予定通り進めるのか?!Day3に続く⇒南アルプス北部大縦走5日間【仙丈ヶ岳・仙塩尾根】静穏なる悠か森へ Day3 2024.7.30