強風と錦の山
山が真っ赤に染まる美しい季節にぜひ訪れたいと願っていた那須三山。昨年も計画するも雨のため中止。今年はお天気は大丈夫そう。なのだけど、10日前に強風で低体温症になり遭難、男女4人が死亡するという事故があったばかりの場所で、この日も強風予報。大丈夫かな…と恐る恐る出発しました。10/16(月)-17(火)
計画では那須ロープウェイ山麓駅をスタートし那須連山(茶臼岳、朝日岳、三本槍岳)を巡り、三斗小屋温泉大黒屋さんに宿泊、翌日は沼原湿原から板室温泉に下る。
◇ 旅の行程 ◇ 1 那須塩原 ⇒(路線バス)⇒ 那須ロープウェイ山麓駅 ⇒ 茶臼岳 ⇒ 三斗小屋温泉大黒屋 2 三斗小屋温泉 ⇒ 沼原湿原 ⇒ 板室温泉 ⇒(路線バス)⇒ 黒磯
朝8時半、那須塩原駅からバスに乗り、那須ロープウェイ山麓駅へ。青空の下、10時登山開始。
ロープウェイにはたくさんの観光客。私はロープウェイは使わずに登っていきます。紅葉いい感じ。
歩き始めて30分、視界が開けるところまで上って来た。うん、風が強い。この日の風速予報は12m。体が飛ばされそうな程ではないけれど、帽子は飛んでいきそう。
50分ほどで茶臼岳と朝日岳の鞍部にある峰の茶屋跡避難小屋に到着。この小屋の陰でみんな強風から避難中。左手の茶臼岳からは登山者が下りてくるし、これから向かう人もいる。だけど右手の朝日岳方面には誰も向かっていない様子。お天気はばっちりなのだけど…。
遭難事故があった直後なので怖いし、事故を起こしたらと思うと…。
茶臼岳は何とか行けそうではあるけれど、怖い思いをしても楽しくないし…。行こうかどうしようか、決心がつかないまま時間だけが過ぎていく。
と、もじもじしていると、屈強そうなお兄さんが「お姉さん茶臼岳行くの?」と。登山口でもお見かけした方、登山道の整備をしながら登ってきていた。他の登山者さんにも次々に声を掛けている。どうやらこの山の関係者のご様子。「この時期はいつも強風、こんな日に登るのは死ににくるようなもんだよ。」え、やっぱり…。
お兄さんはこの峰の茶屋が営業していた頃(いつ頃?)に小屋の主人をしていたらしい。生まれも育ちも現在の住まいも那須湯本と。茶臼岳までの道中で気を付けるポイントを教えてもらう。お兄さんは朝日岳へ向かうとのこと。
それでも決心がつかずもじもじしていると、「茶臼岳一緒に行ってあげようか?」「えー!良いんですか?!」
ということで、最強のナビゲーターをゲット。ありがとうございます!
行けないことはないけれど、行くにはちょっと心細い。そんな時に手を差し伸べられる、背中を見せられる。私もかくありたいと思います。
体温を奪われるので、服を着込む。たくさん着ているので汗をかかないようにこまめに休憩する。小石が飛んでくる可能性があるので、サングラスをする。体が飛ばされそうになるので、トレッキングポールを使う。全てお兄さん直伝。勉強になります。
強風に逆らい体を前に進めていく。風避けにして良いよ、とお兄さん。や、やさしい。
今年は夏が暑かった影響か、紅葉が遅れていて、あまり綺麗ではないとのこと。赤く色づく前に茶色く枯れてしまっている葉っぱがたくさんある。
遭難事故があった日は風速30m以上あったそうだ。お兄さんなら余裕で行って帰ってこれるのだけど、やはり救助となると難航するそうだ。今年はそれ以外にも何人も救助に行ったと言っていた。山は全て自己責任と言うけれど、いざ遭難となるとたくさんの人の手を借りることになる。私はお世話にならないように、と常に心掛けて行くしかない。
ロープウェイで来られることもあり、山頂付近には結構軽装の観光客の方々や、お犬様を連れた方なども。みんな度胸あるな。私がビビり過ぎ?
休憩をはさみながらゆっくり登る。何分かかったかは忘れてしまったけど、おそらく60分くらいか。茶臼岳標高1,915m、正午登頂。
見よこの強風感。
後ろに広がるは広大な関東平野。スカイツリーも富士山も見えるらしい。茶臼岳は火山。大きな岩々がゴツゴツしています。
景色を堪能した後は同じ道を下ります。お兄さんが作ったという道も通りました。
朝日岳と三本槍岳はこの日は諦め。翌日行けたら行こう。全然歩き足りないけれど、気持ちを切り替えて三斗小屋温泉に向かいます。ここの歩き出しまでお兄さんに送ってもらった。なんて手の掛かる山ガールよ。お付き合いありがとうございました!また絶対遊びに来ます!
ここからは稜線を離れるので風が落ち着く。紅葉の森歩きの始まり。
秘境の湯宿
ここで先行するTVクルー3人組に出会う。テレビ朝日の夕方の情報番組の取材で、同じく三斗小屋温泉に向かうそうだ。私は大黒屋さん、彼らは煙草屋さんに泊まるとのこと。同じ宿だったら取材してもらえたのかも。
穏やかな道を歩き続けて14時、到着しました。那須岳の秘湯・ランプの宿、大黒屋旅館。本館は建設から150年と歴史のある建物。標高1,450m。ここは歩いてしか来られない山奥の秘湯。古く1142年に発見され、関東から会津への通り道、参勤交代で通っていた道だそうだ。昔は5軒あった宿も現在は2軒のみ。
昔の旅籠屋の趣そのまま。悟りが開けそうな、名作が書けそうな窓辺のお部屋に宿泊します。
お風呂は2つ、男女時間入れ替え制です。単純温泉、源泉かけ流し。いやー、最高でしょ。
温泉に浸かった後は、窓辺で悟りを開きます。この後眠くなったの何でだろ←🍺。
一眠りした後はまた温泉に浸かり、お楽しみの夕食。お部屋で食べられます。昔ながらのお膳とお櫃で。手作りの優しい味。
夜になると冷えてくる。囲炉裏のある帳場で読書をしていたら、小屋のスタッフさんがストーブを付けてくれた。そしていつの間に私しかいなくなった帳場で、遠くにあったストーブがいつの間にか私の背中に。優しすぎて泣ける。私もさりげなく思いやりを差し出せる人でありたい。
寝る前にもう一度温泉に浸かり(3回!)、21時消灯就寝。温かいお布団でおやすみなさい。
夜の間は雨と風が強く、物音で幾度となく目が覚める。明日大丈夫かな…。
朝食も手作りの優しい味。いただきます!
電波が無いので天気予報をスタッフさんに聞き込み。前日諦めた朝日岳、三本槍岳に行けたら行きたい。お一人の方は「風は昨日より弱い、行けると思う」とのことでしたが、もうお一人良くして下さった方は「風は昨日と同じくらいみたい」と。やっぱり強風予報のようなので、今回は諦めることにしました。またもっと良い時に来よう。
茜色の夢
当初の予定通り、2日目は沼原湿原へ下り、板室温泉でゴールとすることに。7時過ぎにスタート、もう稜線には出ず、森の中を行く。紅葉堪能時間の始まり。
沼原湿原までは時折急登もあるけれど緩やかな下り。ここから茶臼岳ピストンする登山者さんも多く、この日もたくさんの方とすれ違う。前日大黒屋さんに泊まったというと「いいなぁ、泊まるのが夢なのよ」という方が何名かいたのですが、すぐそこだし夢叶えましょう~!
9時半に沼原湿原1,230mに到着。ぐるっと一周木道散策コースを歩きます。
茜色の湿原は静かで穏やかで、時間を忘れました。人間の一生は100年くらいだけど、この湿原は100年前も100年後も、少なくとも私の一生より長く、ずっとここに美しくあり続けるのでしょう。その一瞬に立ち会えた奇跡に胸がいっぱい。
沼原湿原までは路線バスは無く、特定日には予約制のシャトルバスが来ているようですが、平日なので当然無し。さらに下にある板室温泉まで徒歩で下ります。
舗装道路を歩いても良いのだけど、森の中の登山道があるのでそちらを。気持ちの良い森歩きが続きます。
沼原湿原から下ること1時間ほどで分岐に到着。乙女の滝方面の登山道は山と高原地図に載っているのだけど、板室温泉方面は不掲載。山のアプリでは出てくるのだけど。乙女の滝は平日バス運行なし、なので平日もバスのある板室温泉を目指すしかありません。
しかしここからがやばかった…。不明瞭な登山道、そして沢沿いの道は砂利で滑り落ちそうなキツいトラバース道。GPSでは合っているので信じて進むけど…行き止まりになったりしないかな、とんでもない崖とか出てこないかな、と不安が募る。こりゃ紙地図には載せないわけだ。写真を撮る余裕も無し。
神社なのか何かの施設なのか、人が行き来していそうな場所まで辿り着いた。分岐から1時間、ジブリの世界のような橋を渡る。このすぐ先が板室温泉街でした。ほっ。
正午過ぎ、板室温泉550m。下ってきました。この日は火曜日、温泉街の多くのお店が定休日だったようで、唯一やっていた加登屋旅館さんで温泉をいただく。
バスに乗りで黒磯駅まで行き、駅近くのお蕎麦屋さんへ。冨陽さんにてお蕎麦&ビールでエネルギーチャージ。
その後は鈍行電車に揺られ横浜へ向かいました。今回も無事で何より。
感性と憧憬
今回は予定通りのコースを歩けなかったけれど、温泉でゆっくりデジタルその他いろいろデトックスの山旅となりました。時間を、私を堪能したなーという感想。こういう時間でもない限りゆっくり本を読んだり早く寝たり、ご飯や温泉や自分の体の感覚を味わったりしない現代人(私)。感性が研ぎ澄まされる豊かな時間でした。
そして何より、人の優しさ、心強さに触れた山旅。コーチングを学び始め、ちょうど私のコーチングの定義を考えていた時。コーチ像として、前を歩いてくれたお兄さん、さりげなくストーブを私に向けてくれたスタッフさんなど、私の尊敬する、見習いたい、取り入れたい要素をたくさん発見しました。
やっぱり山旅はいいな。私の人生には山旅が要る。間違いない。次の山旅へ続く!