北アルプス後立山連峰縦走5日間【唐松岳・不帰嶮・天狗】かえらずの日本三大キレットと天狗の園 Day4 2025.7.30

旅の4日目。3日目はこちら⇒北アルプス後立山連峰縦走5日間【鹿島槍ヶ岳・八峰キレット・五竜岳】日本三大キレットと菱紋の巨山 Day3 2025.7.29

この日は唐松岳に登り、不帰嶮(かえらずのけん)を越え天狗の大下りを登り天狗尾根を歩き、天狗山荘までを行く、標高差1,000m、コースタイム8時間の一日。7/30(水)

◇ 旅の行程 ◇
0 新宿 ⇒(夜行バス)⇒ 信濃大町
1 信濃大町 ⇒(路線バス)⇒ 扇沢 ⇒ 大沢小屋 ⇒ 針ノ木雪渓 ⇒ 針ノ木小屋 = 蓮華岳
2 針ノ木小屋 ⇒ 針ノ木岳 ⇒ スバリ岳 ⇒ 赤沢岳 ⇒ 種池山荘 ⇒ 爺ヶ岳 ⇒ 冷池山荘
3 冷池小屋 ⇒ 鹿島槍ヶ岳 ⇒ 八峰キレット ⇒ 五竜岳 ⇒ 五竜山荘
4 五竜山荘 ⇒ 唐松岳 ⇒ 不帰嶮 ⇒ 天狗ノ頭 ⇒ 天狗山荘
5 天狗山荘 ⇒ 鑓ヶ岳 ⇒ 杓子岳 ⇒ 白馬岳 ⇒ 大雪渓 ⇒ 猿倉 ⇒(路線バス)⇒八方 
唐松岳

午前4時すぎ、小屋で提供されるお湯が沸くのを待って、アルファ米にお湯を注ぐ。この日の日の出は小屋を出てすぐの白岳で眺める予定。早めに到着し朝食を取りながらその時を待つ。

おはよう世界

遠くに靄がかかり、ぱぁっと明るくはならない日の出。午前4時40分、海坊主のような太陽が地平線だかどこだか分からないところからぬるっと登場するパターンでこの日は始まりを迎えた。

モルゲンロート五竜岳
遠見尾根

狭い山頂で人が多めでしたが、お話ししたり写真を撮ったりしながらしばしの日の出タイムを楽しむ。この日まず歩く唐松岳までの稜線、天空の縦走路。

唐松岳

緩やかで穏やかな道を、朝日を浴びながら進む。

大黒岳

この日も立山連峰がしっかり見守ってくれている。

立山連峰
ウツボグサ

斜面に残る雪渓の形がハート♡

2ハート
振り返って五竜岳

牛首という岩々の鎖場。キレットと違い登山者さんが多いので、すれ違いに時間が掛かる。前日に同室になった女性の一人、「脚立2段でも怖いと思う高所恐怖症の私でも頑張って挑戦したら大丈夫だった」と。やりたい気持ちは恐怖を凌駕するのだ。素晴らしい。

鎖場

怖いところはほんの少し、それだけに慣れていない人も多く入ってくるので、時間に余裕を持って臨みましょう。

鎖場

唐松岳頂上山荘と唐松岳が見えてきた。

唐松岳頂上山荘

白岳から2時間弱で山荘到着。時間は午前7時、出発する大勢の登山者さんでごった返す山荘前。トイレを借り、少し休憩。

決戦の前にしっかりお腹を満たし、唐松岳の山頂に向かって歩き出すと、見えてきました。あれが…。険しい稜線の不帰嶮。6年前は行くつもりが無かったので目にも入っていなかった。初めまして、よろしくお願いいたします。

不帰嶮

山荘から15分で唐松岳、標高2,696m。この日も絶景、登山日和。

登頂!
不帰嶮(かえらずのけん)

山頂でポールをしまいヘルメットを装着していると、不帰嶮方面から屈強そうな男女の集団が。ランスタイルの彼らにカメラマンを頼まれ、写真を撮る。そのうちの男性の一人と話しをすると、彼は呪いの言葉(危ない、怖い、気を付けて、)ではなく応援の言葉を掛けてくれた。「楽しんでね!」と。たったこれだけで私の心がどれだけ救われたか知れない。

日本三大キレットのうちの一つ、不帰嶮。唐松岳と白馬岳を繋ぐ区間で、浸食によって形成された岩峰が連なり、非常に厳しい地形。その名は「一度行ったら二度と戻ってこない」という危険な場所であることが由来とされる。何とも不穏!

核心部は、Ⅰ峰とⅡ峰北峰の間。急な斜面を一気に登り/下り、鎖場が長く続く箇所だ。

そこが、今回の北上ルート(唐松岳側から)だと下りになり難易度上昇。なので、南下ルート(白馬岳側から)で登りで挑む人の方が多いのだ。実際、白馬岳側にある「天狗の大下り」というポイントもこちら側から通ると大上りになるので逆だし、Ⅰ峰Ⅱ峰Ⅲ峰と、白馬岳側から数字がふってある。南下ルートがスタンダードなのだ。

私本当に大丈夫かな…。まさに足を踏み入れるその時を前に、緊張は最高潮。もう引き返した方が良いのではないかと思うほど心は不安に押しつぶされそうになりながらも、体は、足は進めと言っている。覚悟を決めて、Go。

この先不帰嶮

看板を越える。越えてしまった。もう進めしかない。まずは岩のザレた道を慎重に下っていく。数人の登山者さんとすれ違うと、2人目くらいでまた呪いの言葉をもらってしまった。私は応援の言葉を送る人であろうと、心に誓うのでした。

核心部に徐々に近づきながら、私は今まで通ったことのある怖い下りを思い返した。石鎚山の試しの鎖場。八ヶ岳の三ッ岳の鎖場。ものすごく怖くて、なんでここを通ることにしたんだと後悔し、命が危ういと思われたが、私は今無事に生きている。あの時できたのだから、今回もきっと大丈夫。頑張れ私。

南下の計画は3回4回ボツになり、今回の北上は初計画でGo。もう核心部は下りで挑んで来なさい、と山に言われているのだ。この最高のお天気、もう山も太陽も味方をしてくれている。私を死なせることはないはずだ。そしてこんな最高のコンディションで挑戦できる私はとてもラッキーなのだ、とポジティブ変換。

また、なんのためにこの不帰嶮に来たいと思ったのか。私はどんな景色が見たくて、どんな体験がしたかったのか。この美しい稜線上にある険しい場所に立って、その景色を眺めたい、体で感じたいと思ったのだ。私の願い、叶えてやらねばなるまい。

岩々しい

登山者が少なくなり、この美しい景色を静かにひとりじめ堪能。なんて贅沢な時間。

Ⅲ峰

心と筋肉を落ち着かせるためにマグネシウムサプリを投入。マラソンにも登山にもお供してもらう、お気に入りのマグリポさん。いつもありがとう。

愛用サプリ

こんなに美しい天空の道もある。もう天国なのではないかと思う。

天国へ

あからさまにやばそうなギザギザ。

ギザギザ

Ⅱ峰南峰までは特に難所なし。

Ⅱ峰南峰

そしてⅡ峰の北峰を越えると始まる核心部。登山道を表す印に沿って慎重に下る。

鎖場
下る

怖くて足が震えそうになるが、基本の三点支持で足と手を動かしていく。もうここまで来てしまったら後戻り不可、「次の一歩をどう踏み出すか」に全集中するしかない。恐怖は想像している時が一番怖い。直面してしまったらもうやるしかなくて、やってみたら想像よりも怖くないことがほとんど。

空中梯子

このすごい難所で、向かいから来た高齢のご夫婦。「とんでもない道ですね」と声を掛けるとご主人の方から「スリルがあって楽しいですね」と言われ、「本当ですね」と返す。そうだ、最高にスリリングで楽しいのだ。危険は生をより濃くする。私は今生きている!

鎖場

最大の難所、岩壁を数10メートル下る。慎重に行くが、上体を起こし岩から体を離さなければ次の一歩を置く場所も見えないし体が動かせない。ある程度の大胆さも必要だ。高度感がすごいし、足を滑らせれば怪我ではすまないだろう。やはり下りは上りの数倍の難易度という体感。

下り切った

振り返って核心部。とてつもない岩壁。やり切った!

核心部

これから登りで挑もうとする登山者さんが見える。

核心部

核心部の通過も、立山連峰が見守ってくれていました。たくさんの勇気をありがとう。

立山連峰

Ⅱ峰南峰から核心部の通過まで、約30分。怖いところはたったそれだけで、前後は穏やかな縦走路が広がる。その先には天狗の大下りが見えてきた。

縦走路と天狗の大下り
キレットスタイル

歩いていると、前方から何やらお仕事スタイルの二人組。高山植物の調査か何かと言っていた(うろ覚え)。こんな危険なところにまで調査に来るなんて、命がけだな。ありがとうございます、お疲れさまです。

調査班

こんなにも美しい世界、怖い場所を越えてきた人たちだけの貸し切り縦走路。もう最高。

天国広場

天狗の大下りの始まりで、同じく北上していた3人組のグループに出会う。1人が男性のガイドさん、2人が女性。「よくぞあの難所を越えてきましたね私たち!」とお互いを称え合う。朝食時は恐怖で無言だった、と。やっぱり想像している時が一番怖いですよね、本当にそうですよね、想像ほどは怖くなかったですよね!と、この一連の感情の変化をシェアし共感し合う。

それにしてもこーんな怖いところをガイドするなんてすごいな。私だったら参加者さんが心配で心配で死にそうです。

天狗の園

天狗の大下りを登る。標高差300mの急斜面をひたすら登り上げる。足元は岩々で、落石注意。ヘルメットはまだ着用したまま。終わりの方には鎖場。

鎖場
鎖場

看板発見。登り切った。

ここより天狗の大下り

天狗尾根から白馬三山が見えてきた。なんという美しい楽園。挑戦した甲斐がある絶景の連続で、本当に来れて良かった。

天狗尾根

天狗と名の付くところはだいたい素晴らしい。天狗さんほどの力があればこんな楽園を自由に欲しいままにできるのだろう。天狗の名の信用度は高!です。

ガスがかかり幻想的な雰囲気の中、歩みを進める。

進む
美しい

ゆっくりゆっくり、この奇跡の中に溶け込んでしまう時間を存分に味わいながら。

天狗の頭

顔を上げるたび、目に映る世界が奇跡の連続すぎて、私が今生きていると思っているこの世はもしかして天国?と何度も思う。不帰嶮に入ったから、もしかしてどこかの瞬間に私死んだかも?

配色の美しさよ

山に入ると、生死の境が曖昧になる。山で霊魂が再生すると信じて修行をする山岳信仰が盛んになったのも頷ける。本当にそんな感覚になるから。空にも近くなるし、神の領域に触れるのだろう。時間や空間の感覚も自他の境目も曖昧になり、私というアイデンティティは消え去り、大いなる自然へと還る。生まれ変わっちゃうなぁ。

天狗平
天狗山荘

午前11時半、天狗平に差し掛かり、天狗山荘が見えてきた。

当初はこの日に白馬岳頂上宿舎まで行ってしまおうと計画していたが、そうすると白馬三山が午後になり確実にガスの中。それでは白馬三山のリベンジにならないこと、不帰嶮に余裕を持って挑みたかったこと、この天狗山荘に泊まってみたかったことから、この日は短いけれどゴールは天狗山荘に。

休憩時間含めた行動時間は7時間弱で完。キレットはコースタイムかなり長く書いてあるな。

チェックインをすると、この日は宿泊者数が少ないとのことで、かいこ棚の上段スペース、どこでも好きな布団に寝ていいよ!という豪快なスタイルで案内される。6~8人のスペースに思う存分荷物を広げ、コンセントも使いたい放題。

受付に飾ってあったこの手ぬぐい、すごく欲しい…!不帰嶮から生きて帰ってきた記念にすごく欲しい!ぜひください!と言ったところ、なんと売り切れ…がーんがーん。また来いってことかぁ。

手ぬぐい欲しかった

ありがたいことに雪解け水がジャバジャバ出ていて、新鮮な水が無料で飲み放題。たくさんあるから分け合える。少ないと奪い合うことになる。余裕があるって大事。

水場

着替えた後、冷たい水で足をジャブジャブ洗う。あーきもちいい。そして本日の祝杯をいざ。と食堂に向かうと、天狗の大下りで追い抜いた3人組が昼食休憩をしていた。彼らは鑓温泉に泊まるそうで、これからまだコースタイムにして3時間ほど。どうぞご無事でお楽しみください。私はもうゴールなので、お先に生ビールをいただきます。

いただきます

写真を撮ってもらう。なんて楽しそうな笑顔なんだ。念願の不帰嶮、憧れの天狗山荘、至福の時間。

かんぱーい

お腹が満たされた後は、天狗平を散策。お花がたくさん咲いていた天国。

この日は時間がたっぷりあったので昼寝をかます。緊張感から解放され、心はリラックスモード、2時間ほどぐっすり。そして目を覚ますとガスが晴れていて、白馬三山の鑓ヶ岳が美しく輝いていた。なんて最高のロケーション!

テント場と鑓ヶ岳

再び散策。今度は景色を。

天狗池
天狗尾根
天狗平
山荘と鑓ヶ岳

17時、夕食。旅館のようなお食事に皆びっくり。たいへんおいしゅうございました。前日前々日のような満員御礼ではないのは、難所に挑む猛者のみ(?)が利用する山荘だから。同じテーブルになった人たちは、翌日挑むとのことだった。

ごちそうさまでした

私はもう山に入って4日目。下界のニュースに4日も触れていないので、そりゃもう浦島太郎状態。この日、どこかで地震があり、津波の予報が出て、電車が止まっている?などというニュースが他の人からもたらされました。遠い世界の話のような気分。

沈む夕日を眺めに、外へ。

夕焼け色

この山旅最後の夕日。終わりゆく儚い夢よ。

おやすみ世界

空の色が美しく、いつまでも眺めていたい絶景だった。

三日月

山荘に戻り食堂へ入ると、優しいランプ風の照明に、BGMはジャズ。なんて良い雰囲気!

ジャズ食堂

本を読んだり地図を眺めたりして、ゆったりした時間を過ごす。辺りが真っ暗になった消灯時間近く、星を眺めに外に出る。暗闇に輝く無数の宝石のような満天の星。天の川も見える。私の山旅の最終夜。あっという間だったな。

帰ったらいい感じのジャズ喫茶見つけたいな、とか。星空どっぷり感じにプラネタリウム行きたいな、とか。大自然の山の中を存分に楽しんでいるはずなのに、下界のことを思い出す。まさに「山を想えば人恋し、人を想えば山恋し」。そんなことを想いながら、眠りにつく。

ここまで絶好のお天気の中、奇跡の絶景の連続でした。翌日はいよいよ旅の最終日。ここまで来たのなら無事に帰りましょう。さぁ、Day5へ続くぞ!⇒北アルプス後立山連峰縦走5日間【白馬三山・白馬大雪渓】日本三大雪渓と雲上のお花畑 Day5 2025.7.31

今日もthanks🌟