解脱への道
出走しました。11/30(日)
【部門】七面昇龍ロングコース40km、+2,700m
【結果】7時間07分43秒 で完走! 女子24位/51人、総合162位/347人。
「まだ私には早いかもしれない」と感じていた過酷なレースでしたが、弱気と共に進んだ末に手に入れた満行(完走)の奇跡。解脱の境地に達しました。
レースとの出会い:偶然がくれた原点
2年前の2023年12月、たまたま身延山・七面山へ登山に来ていた日、このレースが開催されていました。大好きな山を走ってみたいという気持ちがあったものの、まだ始める決意を持てなかった頃。生まれて初めて目にしたレースでした。
ロングコースのわずか1/3の区間を1日かけて歩くのが精一杯の、普通の山歩きの私。その横を、颯爽と駆け抜けていくランナーたち。鍛え抜かれた体、楽しそうな横顔。性別も年齢も関係なく、たくさんの人たちが山を走ることを楽しんでいる。あの時の衝撃は、今でも鮮明です。
「頑張ったら、私も走れるようになるのだろうか。もしできるなら、いつかこのレースを走ってみたい。」
胸にそっとしまった、私にとっては“大きすぎる夢”。まさかこんなに早く現実になるなんて、あの時の私は思いもしませんでした。
ロングコースへの挑戦:勝算0割からの準備
レース名からして魅力的。何しろ“修行走”。修行が好きな私としては、避けて通れないイベントです。
せっかく挑むならショートじゃなくロング一択。ただしコースは容赦ない。
・制限時間は8時間(40km、+2,700m)
・身延山 → 七面山 → 再び身延山の 三山越え
・登りか下りかのどちらかしかない急勾配
・特に第一関門が超タイト(13.9kmを2時間30分)
エントリー時点の勝算は0割。だからこそ「できることはすべてやる」の一点で準備しました。
体調不良と痛み止め問題
練習しすぎと多忙が重なり、一週間前から徐々に体調を崩す。当日はまさかの 耳下腺炎。悩みに悩みましたが、禁断のNSAIDs(消炎解熱鎮痛剤)に頼ることに…。
※痛み止めを服用してランニングをすることは、大きな怪我を招く危険があるため推奨されません。痛みは「負荷が大きいよ」という身体の大事な警報です。・怪我の悪化・消化器への副作用・腎機能障害・心血管系へのリスクがある上に、タイム向上効果は望めないので、特に慢性的な痛みに漫然と、という服用の仕方は絶対に止めてください。体のケアとトレーニングで解決しましょう!
レース前日:前夜祭と“修行道”の予習
チームメンバーのお姉さまたちと身延入り。受付を済ませ前夜祭へ。
ディレクター・石川弘樹さん、実行委員長、ゲストランナーの話から、このレースが“ただのトレラン”ではないことを改めて実感。
特に印象に残ったアドバイス。
- 「角瀬から赤沢宿、十万部寺までの登り返しは壁」
- 「七面山からの下りも修行。下り途中からが本番」
小松住職の言葉は名言でした。
「これはトレイルランではありません!修行走です!」「レースを完走しても無駄!だが無駄を楽しめる皆さんは強い!」
無駄って最高ですよね。
全体的に制限時間は厳しいが、特に第一関門の羽衣までの13.9km、2時間30分というのが厳しく、そこで関門アウトになる確率が9割5分予想。ただ静かに祈るしかなかった。

第一関門(スタート~身延山奥之院思親閣~羽衣13.9km):激登りの参道、間に合うかの攻防
吐く息は白く、冷たい空気が肌を刺す朝。天気は晴れ。絶好のコンディションだ。7時10分、開会式が始まる。ご祈祷を受け、いよいよ始まる一日に思いを馳せる。
7時40分、スタート。まず目指すは第一関門の羽衣エイド。身延山を登り、そして下る13.9km。
参道を駆け抜け、久遠寺の三門をくぐる。澄んだ空気と法螺貝の音が胸に静かに響く。女坂へ入ると、いきなりの激坂。ここから修行が始まった。
お坊さんや参拝者さんたちの温かい声援に励まされ、朝の光に照らされて輝く境内を走り、ロープウェイ脇の道へ。徐々に体を温めながら、呼吸を整えながら、アスファルトの道を一歩一歩登っていく。
三光堂を過ぎると、トレイルへ。木々の匂い、足から伝わる土の感触。やっぱり山は最高だ。日が昇るにつれ少しずつ暖かくなり、汗がにじんでくる。傾斜はきついが道幅は広めで渋滞はなし。マイペースで歩を進めると、間もなくエイドというところにいたマーシャルの男性から「この時間なら第一関門間に合うよ!」との声掛けが。ここから希望が見えた。
思親閣エイドではおせんべいをもらい、早々に出発。奥之院を過ぎると、下りの始まり。飛ばしすぎないように、だけど関門に間に合うようにと、走る。
感井坊を過ぎ、十万部寺を過ぎたあたりから、下りの傾斜がきつくなってくる。帰りはこれを登るのだ…。情緒あふれる赤沢宿の美しい集落を抜け、七面山の表参道方面へ。道中この旅をご一緒している純子さんや、宿で一緒になった女性と行き会い、このペースなら間に合いそうだね!とエールを送り合い、それぞれのペースで前へと進む。
2時間17分24秒、何とか関門突破!!!(制限時間2時間30分)
まずは難所を超えました。
第二関門(羽衣13.9km~七面山敬慎院19km):七面山への激登り
羽衣エイドではオレンジをもらい、そして手持ちの補給食、カフェインを投入。
よく整備されたトレイルで歩きやすいが、距離5.1kmで一気に標高差1,200mアップと、傾斜がとても厳しいこの区間。
ここからはポール使用可能区間、ポールを組み立てて出発。心拍を上げ過ぎないように、体幹をぶらさないように意識しながら、前へ上へと地面を踏みしめる。足の裏から膝、大腿、お尻、腰、背中から肩まで、全身にズシリとくる激登り。お尻とふくらはぎが張って痛み出すも、登りはそこそこの耐性がある私、周囲の息の上がったランナーたちを少しずつ抜きながらマイペースで進む。
多くの登山者さんたちともすれ違い、元気に挨拶を交わしていく。同じ山を楽しむ者同士、敬意を込めて。
随身門から最高の富士山を眺めた後は、敬慎院エイドへ。

第三関門(七面山敬慎院19km~角瀬25.5km):果てしない激下りと心の持久戦
敬慎院エイドでは温かいお味噌汁、バナナ、大福をもらう。たくさんの方の歓迎と、ここまで来られたことに心が温まる。
ここからは、今登った分だけ下る。距離6.5kmで一気に標高差1,200mダウンと、激下り区間。
トイレに立ち寄り、出発。急斜面が延々と続く。つづら折りの道を何度折り返しても終わらない激下りに、つい「まだなのか?」と思ってしまう。
繰り返される着地の衝撃に足裏は熱くなり、膝は笑い出しそうになり、あちこちが痛みを訴えてきそうな予感がする。下りなのに息が上がり、心拍が上がりっぱなし。それでも、登ってきたのだから下らないと仕方がない。自分を励まし続ける。
じっと耐えること約1時間、眼下に建物らしきものが見えてきた。
5時間11分02秒、無事に関門突破。(制限時間5時間40分)
フィニッシュ(角瀬25.5km~ゴール):三門が見えた瞬間の歓喜
角瀬エイドでみのぶ饅頭に初遭遇。(確か全エイドにあるってブリーフィングの時に聞いたような…。)みのぶ饅頭、オレンジをもらい、手持ちの補給食を口にし、出発。
最後は再び身延山の感井坊まで9.7km登り返し、そこからはゴールまで4.8km下りの区間。
帰りの赤沢宿は石畳の坂道を登る。苔むした足元、目を上げれば紅葉が目に飛び込んでくる、写真集のような美しい景色。
そんな状況の素晴らしさとは裏腹に、体はヘトヘト。平坦なところではまだ走れるが、少しでも登りになるともう走れない。早歩き作戦で、足元を見つめ淡々と一歩一歩進んでいく。壁のような急斜面を必死に歩き登り、あと少しだ、頑張れ、と自分を励ます。
しかし、心は感動でいっぱいだった。まさか私が関門を突破し、七面山を登り終え、今ゴールを目指しているなんて。もう弱気なんてどこにもなく、前に進む一択!!!
時折吹く冷たい風が手や頬を冷やしていくが、そんなものはへっちゃらなのだ。
十万部寺を過ぎると下りも出てきて、感井坊を過ぎたらラストはずっと下り。
途中の紅葉があまりに美しく、思わず足が止まった。気温が何度か上がったのではと思うほどの、鮮やかで温かな黄金が世界を染め上げる。
今回は制限時間が気になりすぎて「写真なんて撮ってる場合じゃない」と思いつつ、それでも撮らずにはいられないほどの圧巻の景色でした。

この景色の中走れる喜びをかみしめながら、あと3km、あと2km、とフィニッシュまでを刻んでいく。20mほど前に見えている女子ランナーの背中を追いかけるも、距離が全然縮まらない。今持てる力を全て出しているが、前の彼女も同じなのだろう。箱根駅伝のランナーはこんな気持ちで走るのだろうか。と思った。
遂に三門が見えた瞬間、思わず声が漏れた。
「帰ってきた!やった!」
参道を駆け下りて――
7時間07分43秒、フィニッシュ!(制限時間8時間)

過酷で無謀な挑戦がなんと成功で終わりました。良かった!

あとがき:奇跡は起こせる
2年前、歩くので精一杯だった私。その私がランナーになって、ロングコースを走り切った。
やると決めたらやる。できるまで諦めずにやる。それが“奇跡”だ。
信念さえあれば人間に不可能はない!人間は成長するのだ!してみせるッ!(ジョジョの名言)
街ぐるみの応援、温かい声援、スタッフ・ボランティアの方々。このレースの魅力は、コースの厳しさだけではなく、「人」の温かさもありました。
辛さも苦しさも、楽しさも美しさも大満喫できるレースです。ぜひ感じてみて欲しい!
記録メモ(補給・体調系)
・レース中でも固形物派、おにぎり派だったが、今回は耳下腺炎(咀嚼が厳しい)のためおにぎりは断念。エナジージェル、山よりだんご、エイドのバナナやオレンジ、まんじゅうや大福などを少しずつ食べる作戦でいった。ジェルは時間で管理、水分はこまめに、で内臓は意外と元気だった。
・耳下腺炎は局所の炎症だったので、食べる時に痛いのと下りの衝撃で痛む程度で何とか走り切ることができた。が、激しい運動で免疫力は低下、その後長引き治りません…。
・痛み止めの使用はやっぱり良くない。おそらく負荷がかかりすぎてしまい、後日のダメージ(筋肉痛、足底痛)がいつも以上に大きかった。
・休養もまたトレーニング。ベストコンディションで挑む大切さを実感。
最後に
私の「やりたい」に時々ストップをかけつつも、いつも付き合ってくれている体に感謝を込めて。そして支えてくれる周りの皆さんに感謝を込めて。痛み止めにもありがとう!
次は12月、やきいもトレイルラン。ただただやきいもが食べたいだけです。楽しく走ってきます。
次へ続く!

