旅の4日目。前日はこちら⇒南アルプス南部大縦走5日間【聖岳】聖なる壮麗な緑の山々 Day3 2023.8.22
この日はコースタイム12時間(小屋番さん曰く10時間)の長い一日。光岳(てかりだけ)2,592mを目指す。
◇ 旅の行程 ◇
0 東京 ⇒(夜行バス)⇒ 畑薙
1 畑薙 ⇒(登山バス)⇒ 椹島 ⇒ 千枚小屋
2 千枚小屋 ⇒ 千枚岳 ⇒ 悪沢岳 ⇒ 赤石岳 ⇒ 百間洞山の家
3 百間洞山の家 ⇒ 兎岳 ⇒ 聖岳 ⇒ 茶臼小屋
4 茶臼小屋 ⇒ 光岳 ⇒ 茶臼小屋
5 茶臼小屋 ⇒ 畑薙大吊橋 ⇒ 白樺荘 ⇒(高速バス)⇒ 東京
遂に決断の時
前日夜から雨が降り始め、小屋の屋根がポツポツ、ザーザーと演奏を続けている。
10時間なので、14時に帰ってくるつもりで4時出発。3時に目覚ましを掛けるも、その時点で雨。少し様子を見るも雨が止む気配は無し。雨すなわち私の山の第一希望条件である展望はなく、修行になるということ。
この体の疲れ具合で暗い雨の中ヘッドランプを点けて出掛ける気にはどうしてもなれず、もうこの周辺をライチョウ探したりお散歩したりしよう!とリタイヤ、二度寝を決め込む。
6時少し前に食堂に下りていき、朝ごはんを食べてのんびりしていたら、小屋番さんに「16時までには帰って来てね」←光岳往復したいと前日に言ってあったから…。「雨だし辞めようかと思って、こんな時間になっちゃったし…」「今からでも間に合うよ」
「前日の百間洞山の家〜茶臼小屋までの体力の半分で行けるよ、アップダウンが少ないから。ただ長いだけ。なかなか来れないでしょ?」、確かにここは気軽に来れるところではなく、百名山の百座目になることが多い(それだけ来にくい)光岳。「天気も午後は良くなるから大丈夫、せっかくだし行ってきな。」と。
うへぇえ?!じゃあ行ってきます!!!と出発決定。6時20分出発、帰還目標16時!
山にいる人たちはみんな前向きだ。自信がなければそこには居ないから。諦めそうだった私も「行ってきな」という言葉を拾うのでした。
展望は無いけれど南アルプスの深い森の美しさを堪能する行程。行けるところまでで引き返しても良いし、と思うのだけど、私の性格上、せっかく取り組むのなら最後まで完遂したい。また休憩無しで歩き続ける恐ろしくも楽しい一日が始まりました。
深い森の山へ
25分ほどで茶臼岳山頂へ。ここから日の出を拝みたかったのだけどなぁ。またいつかの楽しみに。
同じ小屋に帰って来るので荷物はこの日中に必要なものだけ。肩の軽さと雨の涼しさが私の脚と心を軽くする。
曇天では池もただの茶色い沼。またいつかの楽しみに。
平らな場所に延びる木道はお散歩気分で最高。
茶臼岳から光岳への道はそのほとんどが樹林帯で、光岳は森の山。奥のそのまた奥の山頂を目指して。
1時間で希望峰に到着。仁田岳はパス、展望は無いし、急いでおりますゆえ。またいつか。
徐々に標高を下げ、木が濃くなってくる。緩やかな道が左右に小さく、時に大きく揺れ動きながら、南アルプスの深い美しい森にどっぷりと私を誘う。
アップダウンは少しあるものの、連続した登り下りが20分も続かない。2時間で易老岳へ。名前がこわい。老けやすいってこと?!
雨は降ったり止んだりしながら次第に強まり、午前9時頃にはザーザー降りに。カメラなどは全てザックにしまい、思い出は目と心に焼き付け、歩き続けます。
光岳小屋手前の静高平までが急な登り。この日最難関。森が途切れ沢が流れる楽園のようなスポット。季節にはお花が咲き乱れるのでしょう。このあたりがライチョウの最南端の生息域らしい。調査団はまだ発見していないようなのですが、目撃情報はあるとのこと。
そしてこれまた楽園天国の様相の平原、センジヶ原を越え(イザルヶ岳はパス)、光岳小屋が見えてきました。出発から4時間、午前10時半。
屋根の下で少し休憩をさせてもらう。NHKの番組「小さな旅」の取材班が10日ほど滞在中とのことで、番組スタッフの方に話しかけられました。私が何か特徴的な登山者だったら取材してくれたのかな?!(※番組は2023/9/24に放映されていました)
行動食を口に含み、ここからさらに奥にある光岳山頂、光石まで。小屋から15分ほどで光岳へ。午前11時、登頂!
光の差す方へ
日本百名山、光岳2,592m。私は46座目でした。名前の由来はこの後に行く巨大な岩塊(光石)がテカリと光るから。
展望の無い山頂。ここだけ切り取るととても地味。私もそれ故に他の山とセットじゃないと、ここだけわざわざ目的にしては来れないなと思っていたし、現に朝諦めそうになった。しかし、なぜ地味なここが百名山かというと、白く輝く巨大で厳かな光石、天国のようなセンジヶ原、深く静かな原生林などの一帯を全て含めて “品格、歴史、個性” がある、と認められたから。ここまで歩いてきた今なら分かる。次はここだけ目的に来れる。今度はコバイケイソウの時期、初夏が良いな。
そして光石へ。10分ほどで到着。遠くから見てもよく分かる巨石たち。また晴れている時に拝みに来ます。
ここから折り返して、同じ道を帰ります。
立ち枯れの木々、縞枯帯もあり。シダの美しい場所も。
点在する平原には枯れたコバイケイソウの葉っぱがたくさん。一面に咲いていたら圧巻なのでしょう。次はぜひ。
帰りは少し雨が止み、最後の茶臼岳では空が明るくなった。とても静かで深い、森を楽しむ一日が終わりました。
15時半茶臼小屋へ帰還、5日間中一番辛くなかった。体力メーターを意識しない程。やはり暑さと荷物の重さが疲れの要因のようだと分かる。
茶臼小屋には2泊したのですが、名物の小屋の窓からの日の出は2日間とも見えず。またいつかの楽しみに。背中を押してくれた小屋番さんには感謝感謝です。また絶対来ます!
終演
そして残すは旅の最終日、5日目。この日は朝から強めの雨。濡れないように荷物をパッキングし、カメラもしまい、一気に畑薙まで下山。
急勾配、キツいトラバース、沢を渡る手すりも何もないただの細い丸太橋、崩壊した登山道の下に急きょ作ってくれたであろう沢沿いのバリエーションのような道、崩れかけた怪しげな鉄階段…。鉄階段のところ、正しい道だったのだけれど、ここだけGPSがズレていて「警告⚠予定ルートから外れました」と声高にお知らせが。ただでさえ雨かつ怪しい道に不安がいっぱいという状況下、紙地図に階段との記載はあるもののこれがその階段か確証は無い。ルートを間違えたかと行きつ戻りつウロウロ。10分以上してもどちらからも誰一人来ない。他に道は見当たらないので、鉄階段をソロリソロリと降りていくと、あるじゃん普通に道!(登山道は変わることがあり、現に登山口の千枚大橋などは6年前の紙地図には載っていない。山小屋などが出してくれている最新情報も必ずチェック!)
小屋番さん曰く「ちゃんと整備されてる道」南アルプスはレベル高いんです。いや、本当に、こんな厳しい場所に道を作ってくれてありがとう!
5時間ほどで標高960m、畑薙大吊橋のある下山口へ。せめてここの写真を撮りたかったけれど、ジャンジャン降りなので諦める。
そしてたまたま同じタイミングで下山した山おじさまと舗装路を歩き、温泉のある白樺荘へ。おじさまは前日の光岳が百名山97座目だったそうで。南アルプスは最後になりやすい場所なのですね。
この舗装路がまた長くて、5日間歩き切った足の裏がアスファルトを踏みしめるたびに痛い痛いと言うし、相変わらず肩は重い重いと訴えてくるし、ジャンジャン降りだし、5日間中4番目の辛さとなった。
無事白樺荘に到着し、最後に無事でない大事件が。
この写真を撮った後、派手にカメラをぶっ飛ばしてしまい、大怪我し入院確定。大ショック(修理に出したら本体価格に迫る費用が掛かった…)。私じゃなくてカメラが不幸を背負ってくれました。チーン。
仕方ないと開き直り、5日分の汗を流す。数日間頭を洗わないとシャンプーって泡立たないんだよ?知ってる?3回くらい洗ってようやく泡立ち、旅の長さを思い知る。
一人ビールで旅の無事を祝い、帰路へ。
5日間の死闘(?)が終わった。総移動距離81.7km、累積標高差7,848mの旅。
手にしたのは大きな達成感と自信、疲労と、数えきれない奇跡の瞬間、それがひとつながりになったドラマのような思い出。最高しかない。
しかし、夏山はキツイです。特に今年は暑すぎた。暑いからバテるし、ガスが湧いてくるのが超早いし(AM8時頃)、夕立も超早い(PM12時頃)。今回は夕立の雷が怖くて、追いかけられるように行動したのが私にはとてもハードすぎちゃって、ほとんどずっとマラソン状態。1分1秒を惜しんで、全く余裕が無かった。そしてバテすぎて食欲は落ちまくりほとんど食べられず、消費カロリー>>>>>摂取カロリー。どこからエネルギー湧き出てきてるんだ?!と思う程。
その後数日間は消費カロリーを取り戻すかのように食欲が爆上がりしたのは言うまでもありません。私の細胞たちよありがとう。
また来るには季節を考慮せねば。山ガール夏山引退の危機。もっと体を強くしていくか。
5編に渡る長いブログをお読みいただきありがとうございました。書くの大変だったし最後の方は時間が経ち過ぎちゃって忘れかけているところも多々だったけれど、旅を思い出しながら反芻し、その時間もとても楽しかった。
私の人生という山旅はまだまだこれから!次の山旅へ続く!
私の愛用のトレッキングポールはこちら。GRIPWELL軽量カーボン。折りたためて軽くて◎、手も痛くならない。