旅の3日目。2日目はこちら⇒南北八ヶ岳縦走4日間【横岳・硫黄岳・天狗岳・にゅう・白駒池】情熱の山から冷静の森へ Day2 2024.9.24
この日は北八ヶ岳の茶臼山2,384m、縞枯山2,403mに登頂し、雨池峠を越え、三ッ岳、北横岳2,480mに登頂後、亀甲池、双子池を越え、双子山2,224mに登頂、大河原峠から蓼科山荘までを歩くコースタイム9時間半の一日。9/25(水)
◇ 旅の行程 ◇
0 東京 ⇒(夜行バス)⇒観音平
1 観音平 ⇒ 編笠山 ⇒ 権現岳 ⇒ 赤岳 ⇒ 赤岳天望荘
2 赤岳天望荘 ⇒ 横岳 ⇒ 硫黄岳 ⇒ 天狗岳 ⇒ にゅう ⇒ 白駒荘
3 白駒荘 ⇒ 麦草峠 ⇒ 茶臼山 ⇒ 縞枯山 ⇒ 三ッ岳 ⇒ 北横岳 ⇒ 双子池 ⇒ 双子山 ⇒ 蓼科山荘
4 蓼科山荘 ⇒ 蓼科山 ⇒ 八子ヶ峰 ⇒ 白樺湖 ⇒(路線バス)⇒ 茅野
朝の池と峠
あまり熟睡出来ずに何度も起きてを繰り返す。やはり快適であろうがなかろうが、標高の高い低酸素環境での睡眠は質が悪くなる。横になって目を瞑っているだけでも回復は出来るらしいので、おとなしく横になり続ける。
白駒荘での朝食もぜひ楽しんでみたかったのだが、この日も長い行程なので、朝4時起床、5時すぎに出発。綺麗な洗面台があり灯りも付くし、快適に身支度を進める。
朝の白駒池、幻想的で美しい。ずっと眺めていたいのは山々だが先へ。まだ薄暗い森の中を進むと、駐車場方面から歩荷さんが荷物を背に歩いてくる。私は麦草峠方面へ。
足元を見ると黒く光り輝く石が。黒曜石の由来は火山、火山ガラスとも。この山の麓の茅野には縄文文化が栄えており、太古の昔からの火山の恩恵がそこかしこに。
平坦な道を進むこと30分で麦草峠へ。これから登る山々と、麦草ヒュッテ。振り返ると鮮やかな朝焼けの空。
麦草ヒュッテ、この日は定休日のようでしたが、スイーツが人気、と噂に聞くところ。オシャレっぽいし。ここもいつか。
一度きりの今日がまた幕を開けた。楽しんで生きましょう!
日が出てきたのとこれからの登りに備えて、身支度を整えて出発。国道299号を横切る。久々のアスファルトインフラにドキドキ。まだ下山しませんよ!
森の中を進む。あらゆるものに苔がびっしり。
別世界へ
茶臼山を望む展望台へ。
大小の石がゴロゴロしている登り道を進んで行く。気を抜くと滑りそうになるが、朝の爽やかな空気と緑で気分が良く順調に高度を上げていく。やはり縦走する人は少ないのか、朝歩荷さんに会ったっきり全く人に会わない。山と森と苔を独り占め時間。
午前7時、茶臼山展望台へ。2,384m。
南にはこれまで歩いてきた南八ヶ岳の山々。ずいぶん遠くまで来たなぁ。
北にはこれから歩く北八ヶ岳の山々。奥に見える丸みを帯びた蓼科山の中腹までこの日は進む。まだまだ遠いなぁ。
眼前、西方面には平地と街並み、その奥には中央アルプスや御嶽山や、北アルプス。縄文人も良い場所選んだな。
少し風があり、留まっているとすぐに寒くなってくるが、行動食をもぐもぐしつつ、じっくり眺める。ここ茶臼山とこれから行く縞枯山は、以前母と北八ヶ岳ロープウェイを使い周回したことがある場所。ここに立った母が「テレビの中の世界に来た」と言って喜んでいたのを思い出す。麦草峠から1時間でこの絶景、にっぽん百名山の景色の中に入れる茶臼山、とってもオススメです。
いつものことながら山時間を堪能しすぎなので、この時点で予定時間を30分以上オーバー中。この日も長いので適当に区切りを付けて進んで行かなければなりません。
次のポイント、縞枯山への道の途中で出てきた、縞枯帯。縞枯れ現象は自然現象で、等高線方向に帯状に樹木が集団枯死する現象のこと。自然界の大いなる循環。
縞枯山展望台より茶臼山、南八ヶ岳。
茶臼山から雨池峠までの道は母と一緒に歩いている(しかも残雪の5月下旬)。なかなかの急斜面が続く道。良く来れたなと感心。
展望の無い縞枯山2,430mを通過し、雨池峠へ。急斜面な上にザレて滑りやすく、スピードは上がらない。
地獄の岩
午前8時半、雨池峠へ。北横岳へ向かうのに、雨池山と三ッ岳のルートを選択。簡単なのはロープウェイ駅方面の坪庭ルート。でも少しでもピークをたくさん踏んでいきたい。この選択が後に肝を冷やすことになるとは、この時は知る由もないのである。
今まで歩いてきた北八ヶ岳の雰囲気からして、穏やかな道が続くのだろう、と思っていたのだが、何だか様子が違う。大岩地帯が出現。一歩一歩が大きくなる。
少し登ると、雨池山展望台から八丁平と坪庭、ロープウェイ駅が眼下に。
雨池山、2,325m、展望は無し、先へ。この辺りは普通に土の道なので安心する。
笹原を鞍部まで下り、三ッ岳方面へ。登り始めて再び大岩地帯。四肢を使い登るように。あれあれ、穏やかな北八ヶ岳のイメージではない場所。マーキングも少なく、本当にこの道で合ってるの?と不安になる中、鳴り響くGPSの警告音声。登山道を外れました、と。スマホを確認すると、GPSの現在地がぶっ飛んでいる。たまにバグるスマホのGPS、不安な時にやめてよ、涙。でも岩に踏んだ感じはあるし、正規ルートで間違いは無さそうなので、先へ。
誰ともすれ違わないので相変わらず不安ではあるが、たまに登山道の目印のピンクテープが出てきてホッと胸を撫で下ろす。そして午前9時すぎ、三ッ岳Ⅰ峰に到着。進行方向に見えている鋭い峰がⅡ峰、Ⅲ峰だ。圧巻の眺め。
こういうカッコ良い山は好きだし、チャレンジングなことも好き。でも完全にリサーチ不足。岩稜帯足元注意、と確かに地図には書いてあったが、北八ヶ岳のイメージに引っ張られ、こんな山だとは全く思っていなかった。じとっとした不安が胸の底からじわじわとかさを増してくる。
それでもこの眺めを目にできた喜びを嚙みしめながら、あれを超えて行くぞ、と気を引き締めて、一歩先へ。
Ⅰ峰のあたりは、前日の天狗の奥庭に似た雰囲気で、俗世との隔たり感が良い感じ。
一つ一つの岩がとても大きくなり、岩の隙間から下が見えない。暗闇に吸い込まれそう。ここに落っこちてしまったら自力ではきっと這い上がれない、地獄の奈落の底。底の見えない宙を踏むような岩歩き、恐ろしくて心拍数は上がり、呼吸は浅く早くなる。慎重に、でも早く通過したい。
Ⅱ峰のあたりは恐ろしく、自然の作り出した造形は美しいが、堪能する余裕はない。とても休憩しようなどとは思えないので、どんどん先へ。早く安心したい。
鎖場を超え、Ⅲ峰へ。北横岳が見えてきた。
Ⅲ峰のあたりも引き続き恐ろしい。そしてすぐ近くにそっくりの岩稜の山頂が(この時は予定していたルートがあの山頂を通ると気付いていない)。
Ⅲ峰からの下りに怖い鎖場が待っているとアプリの地図に。ただし迂回路があるのでそちらも行ける、と書いてあったので、迂回路を選択するつもりで進むも、分岐が分からずに鎖場に突入。もちろん戻りたくないので、私の経験と技術と力を総動員して、一歩一歩下る。
鎖場を通過しホッとするも、まだまだ気の抜けない大岩地帯は続く。傾斜が緩んだのが唯一の救い。途中、大岩の隙間にペットボトルなどの落とし物がいくつも。落ちてももちろん回収は出来ません。体が落ちなくて良かった。そしてここで早朝の歩荷さんぶりに人とすれ違う。これから三ッ岳チャレンジか、ご安全に、と祈る。
坪庭からのルートと合流。雨池峠にはこんな看板無かったよ。危険なので注意⚠
怖さのあまり立ち止まることなく先へ先へと進んできたので、三ッ岳ルートで30分ほど回収する。ロープウェイ駅から北横岳は初心者OKのルートなので、ここからは穏やかな山歩きに。
森の海と池
5分ほどの場所に北横岳ヒュッテ。ここもこの日は営業していなかったが、トイレは使えた様子。
少し寄り道になるが、七ッ池を見に下る。7つあるのかと思いきや、2つだけ。
青空が良い感じ。
北横岳ヒュッテに戻り、看板を見て驚愕。三ッ岳、難路・転落注意!大岳、難路・転落注意!大岳の方が岩の絵が2倍描いてある!
三ッ岳から近くに見えたそっくりな山は大岳だったのだ。計画では北横岳から大岳を通ることにしていたが、再びあの恐怖は味わいたくないので、計画変更。亀甲池へ下るルートにしよう。計画変更は悔しい、なんだか負けたような気分になるが、私はあの大岩地帯はあまり好きではない。
北横岳までは良く整備された穏やかな道で、さっきまでの大岩地帯を考えるとまるで散歩道。足取り軽く向かう。ここはたくさんの登山者で賑わっていた。
午前10時半、北横岳山頂へ。南峰2,472m、北峰2,480m。蓼科山が近付いてきた。
この標柱の私が手を掛けているすぐ下に、大岳方面は危険⚠という注意書きが。あの大岩地帯が標高差で300mも続く、コースタイムの3倍かかる人もいる、など恐ろしい情報が。絶対行きません!
緊張感が続いたので、ここで長めに休憩。風を避けて腰かけ、行動食をもぐもぐする。前日のあのお二人はこの日ロープウェイで帰ると言っていたので、もしかしてここで会えないかなーと思いつつ行き交う登山者さんたちを眺めてみるも、会うことは叶わず。
写真を撮ってと言ってきたトレラン3人組、登りは亀甲池方面から、下りは大岳方面へとのことで、危険みたいだけどそういうの大丈夫?と聞いたら、良く知らないけど亀甲池からも大岩だらけだったし大丈夫でしょ、と言って進んで行った。え、亀甲池ルートも大岩だらけだと…?!
30分ほど休憩した後、一抹の不安を抱えながら、先へ。穏やかな森の下りが続く。所々に確かに大きめの岩があるが、三ッ岳の数分の一ほどの大きさ。あの3人は大丈夫だったのだろうか。
難所は無く、1時間ほどで亀甲池へ。干上がってしまっているのだろうか、水は遠い。
亀甲池から双子池までに崩れた谷があり、ちょっぴりアドベンチャー。
30分ほどで双子池へ。こちらは雌池。
ぐるりと対岸まで池の周りを歩く。笹が生い茂り、道がいくつも分岐していて、どこも微妙に歩きにくい。キャンプ指定地になっていて所々に小さい平坦なスペースが。何だか鬱蒼として薄暗い雰囲気で、私一人だったらたぶん一睡もできないだろう。
10分ほど進むと、双子池ヒュッテと雄池が。
林道が近くまで来ているらしい。車が一台あるだけで、山小屋ではなく山奥の道沿いにある作業小屋のように見えてしまう不思議。トイレは使えそうだった。
天国の広場
北横岳から見えた、広い山頂の双子山へ。山容から想像できる通り、ゆったりと緩やかな傾斜の道を登っていく。
30分ほど登ると、視界が一気に開ける。なんだここは天国かー!
広がりのある山頂、蓼科山が目の前に。
地に足が付くとはこんなにも安心なのか。広がりがある地面の天国感。もう何時間でもここで過ごしたいー!
出発前の天気予報だと怪しかった3日目のこの日、予報は好転し、雨ではなく青空の良い一日。むしろ日焼けが心配すぎる晴天。良い景色を見せてくれて、ここまで安全に来させてもらい、大自然と神様、ご縁のある全ての人、物、事に感謝を。
地獄は怖かったしもう積極的に行きたいと思わないが、地獄があるからこそここは天国、となるし、地獄の体験が思い出をピリリと引き締めてくれる。天国だけだとそれはきっと天国とは思わないし、ビローンと締まりのない思い出になりそう。地獄にも大感謝だ。
ゆっくり堪能した後は、また緩やかに下り、大河原峠へ。
ここは林道大河原線が通っており、車でアクセスできる。双子山までは登り20分、下り15分、穏やかな登山道を辿ってあの天国に行けるなんてすごい。とってもオススメです。
暑いし疲れたしで必殺コーラが飲みたくなってきた。自販機でもないかなーと思っていたら、売店が。無人だけどOPENしているので覗いてみる。
飲み物やアイス、ビールやカップめんの他、ちょっとした山グッズなどが。お目当てのコーラはなかった(確かあったけどゼロだった、普通のコーラ希望)ので、CCレモンをいただく。伝票とお金を封筒に入れ、ポストに投函する仕組み。街価格を期待したけれど、ちゃんと山価格です。
この時14時、コースタイムにしてここ大河原峠から蓼科山荘までは1時間40分。前日はもうこの時間に山小屋に到着していたことを考えると、この日はゆっくりしすぎではある。しかし、地獄に天国にと、感情は大きく揺れ動き、アップダウンも続き、旅は3日目。体の痛みなどは無いが、筋肉の疲れはたっぷり溜まっている。よく頑張っているんだ、と自分を褒める。
この時間からまだ登るのかー、お天気大丈夫そうとはいえ山小屋には早く着きたいなー、と、焦りや不安や疲れが入り混じる。そんな昼下がりの時間帯。
笹が生い茂る道、着実に高度を上げていく。一週間前の9/15(日)に私の大好きな「世界の果てまでイッテQ!」でウッチャンの還暦祝いにメンバー全員で7月の蓼科山に登った様子が放映されていた。そしてこの日私が宿泊予定の蓼科山荘に宿泊していた。登山道はここ大河原峠からではなく七合目登山口からだったが、こんな道を皆で登ったのかなー、などと想像しながら。
佐久市の最高地点だという場所を通過。
ちょっと道を逸れて前掛山。
道交わる宿
だんだんと空が薄暗くなり、将軍平に着いた頃には山頂は真っ白。
15時、この日の宿泊地、蓼科山荘へ。登山道が十字に交わる将軍平にある。
作りは古い昔ながらの山小屋。この日の宿泊者は私一人だけ。蓼科山は日帰りでも行けるのと、中腹という場所、平日、となると宿泊する人はあまり多くはないのだろう。イッテQ!でも貸し切りみたいだったしな。
素朴な感じのお姉さんが一人で切り盛りしている。宿泊台帳に記入していると、温かいお茶を出してくれた。
畳の部屋にはテントが張ってあり、そこで寝る。感染症対策で、大部屋でも個室感覚。清潔なシーツと十分な毛布が用意されている。
先般、登山中の事故で亡くなった中島健郎さんのサインが。もうここに訪れることはないなんて。切ない。
白樺高原の長門牧場のアイス、チョコレート味を購入。でも寒くなっちゃうな、と呟いたら、ストーブを出してくれた。そして私用の温かいお茶ポット。
本を読んでいたら灯りを付けてくれたり、言葉は多くないが、さりげない気遣いをしてくれているのをとても感じた。
そして極め付きはご飯がとても美味しい!!!キッチンから聞こえる包丁のトントンという音から既に美味しかった。全部美味しかったのだけれど、里芋の辛子味噌和え(たぶん…繊細な舌を持っていないので不明)が特に好みだった。貧弱胃袋のせいで完食できずかたじけなし。
私一人のためにお茶を入れてくれて、ご飯を作ってくれて、暖かい寝床を用意してくれて。その他様々快適に過ごせるためのさりげない心遣い。本当に感動しました。何か貢献したくなり思わず手拭いを購入(めったに買わない)。山ガールが好きなオシャレ度は若干低めですが、そんなことはどうでも良い!と思える体験でした。形よりも心が大事なんだ。本当にありがとうございました。(帰ってきてGoogleマップの口コミを見たら辛辣なことが書いてありびっくり。あくまでも個人の感想、感覚は千差万別だ。私はすごく良いと思ったので、☆5つです)
一人なので2週間前の避難小屋の夜を思い出し、またどんな恐怖の想像が襲ってくるかと身構えたが、どうやら同じ建物内にスタッフの寝室もあるのだろう。お姉さんの気配を感じるので、怖くない。(今思えばそれこそが幽霊の物音だったとしても、お姉さんだと信じているので大丈夫だった)
日が暮れた後は、また満点の星空が。翌日もきっと良い天気だ。
天国と地獄の3日目が終了。八ヶ岳のいろいろな表情に出会い、これはもう八ヶ岳上級者なのでは、と思い始めた。フィナーレを飾る4日目はどんな旅路が待っている?!Day4に続く⇒南北八ヶ岳縦走4日間【蓼科山・八子ヶ峰・白樺湖】不二の山と稜線と湖 Day4 2024.9.26