旅の2日目。1日目はこちら⇒山形朝日連峰縦走3日間【大鳥池・以東岳】幻の湖とブナの秘境 Day1.2024.9.30
この日は以東岳1,772mを出発し、朝日連峰の主稜線を行く。狐穴小屋、寒江山1,695m、竜門小屋、竜門山1,688m、西朝日岳1,814mを越え、主峰の大朝日岳1,870mに登頂、山頂直下の大朝日岳山頂避難小屋までを歩くコースタイム8時間の一日。10/1(火)
◇ 旅の行程 ◇
0 東京 ⇒(夜行バス)⇒ エスモール鶴岡
1 エスモール ⇒ 朝日庁舎前 ⇒ 大鳥口 ⇒ 泡滝ダム ⇒ 大鳥小屋 ⇒ 以東岳避難小屋
2 以東岳避難小屋 ⇒ 寒江山 ⇒ 竜門山 ⇒ 西朝日岳 ⇒ 大朝日岳 ⇒ 大朝日岳山頂避難小屋
3 大朝日岳山頂避難小屋 ⇒ 小朝日岳 ⇒ 古寺山 ⇒ ハナヌキ峰 ⇒ 日暮沢 ⇒ 大井沢温泉
紅の縦走路
この時の以東岳避難小屋の管理人さんは優しいおじさんで、泡滝ダムから以東岳まで何時間かかったかの確認、次の日の行き先の確認をした上で、ルート上の水場などのポイントを教えてくれた。
前夜に管理人さんから皆に、明日の朝は何時点灯が良いか、という確認があった。皆日の出を見たいよね、ということで、確か4時半頃に点灯ということになったが、4時頃から皆起き出し、支度開始。午前5時すぎ、小屋を出発。雲一つない空が白み始めている。
熊の毛皮を広げた形の大鳥池と以東岳避難小屋。素晴らしいロケーションに建つ小屋。ここまで来られて本当に良かった。
風が強いが、凍えるような寒さではない。広い山頂のどこで日の出の瞬間を見ようかとそろそろと歩き回る。前日は何も見えなかった景色が、この日は見渡す限りの大展望。日の出を待つ間に写真撮影会。撮り合いっこしました。
こちらは前日歩いてきたオツボ峰ルート。良い展望の中歩きたかったなぁ。またいつか。
風に吹かれて唇が乾燥してきて、リップをぬりぬり下を向いていた時に日の出の瞬間が!!!皆さん静かで歓声が上がらなかったので、太陽の光が顔に当たって気が付いた。
濃い青がだんだん薄い水色に、白からオレンジに、世界が刻一刻と色彩を変えていく。
北には美しい裾野を広げる山、月山が堂々たる佇まい。山形を代表する名峰。
南には、ここ朝日連峰と並んで「東北のアルプス」とも称される、飯豊連峰が。大きいなぁ。あちらにもいつか必ず。
この日歩く大朝日岳までのウイニングロードが光り輝き出す。色彩が変わっていく様が本当に美しい。
願って願って願い続けた主稜線の縦走が、この上ない最高の状態で、今私の目の前に。
ここからのこの景色をずっと眺めていたい、でも歩いてこの景色に溶け込みたい。そんな葛藤でムズムズする気持ち。でもこの最高のお天気のうちに先に進まなければ。と決着をつけ、午前6時、その道に一歩を踏み出す。全てが奇跡ハイライトな一日はもう既に始まっているのだから。
遠く見える大朝日岳まで、稜線はなだらかに続いている。大きいアップダウンはなく、森林限界を超えた天国の稜線歩きだ。振り返って以東岳。
天空の楽園
行く先が光り輝く。砂地や岩、笹原の道がどこまでも穏やかに続く。例のごとく朝露で足元は雨状態。
空は最高の晴天。日差しは強く初秋とは思えない暑さだが、風の爽やかさは秋の気配。
良い道なのでどんどん進んでしまう。始まりとはつまり、終わりに近づくということ。この日が既に始まり、一瞬一瞬がどんどん過ぎ去っていくことが名残惜しくて、何度も何度も振り返りながら。本当に世界は美しい。
歩き始めて1時間、以東岳が遠くなった。どっしりとした堂々たる山容よ。真っ青な空とのコントラスト。極楽浄土。
午前7時すぎ、中先鋒、1,523m。
午前7時半すぎ、狐穴小屋が見えてきた。
シンプルな造りの避難小屋。ここも前日はツアーの方などで賑わっていたらしい。水場もトイレもある。
細かなアップダウンが繰り返されるものの、ずっと歩きやすい道が続く。たまに前方が目の前のピークで隠されるものの、頂上へ登ればすぐに展望が戻る。ここはあの世かこの世か、きっとその境目だろう。
連なる山々の先に、大朝日岳。青く深く美しい山脈。壮大な景色。
青空の下、360度の大展望を眺めながら、一人歩く。なんと素晴らしい日なんだろう。
午前9時前、寒江山、標高1,695m。三面小屋から北寒江山への稜線の、相模山と大上戸山をバックに。
ここで二人組の登山者さんとすれ違う。前日は竜門小屋に泊まって、この日もまた竜門小屋に泊まると。今は散歩中。そうやってゆったりと楽しむ方が多いのもこの山域の特徴のようだ。それにしては普通に大荷物なので、荷物置いてこなかったの?と聞いたら、全部持ってきたと。いろいろと各自こだわりがあるのですね。遠くなるお二人の姿を写真に収める。
遠くに見えた大朝日岳がだんだんと近付いてくる。美しい稜線がどこまでも。
命の輝き
季節は秋、残り少なくなった花たちが精一杯咲き誇る。一期一会の可憐で強かな生命力を写真に収める。
そしてもう一つ避難小屋、竜門小屋が見えてきた。
午前10時前、竜門小屋。前日同宿だったツアーの方々は、この日はここに泊まると言っていた。
こちらもシンプルな造りの避難小屋。水場もトイレもあり。そしてこの小屋のロケーションが最高。テーブルとベンチがあり、どこまでも広がる草原と山並み。風に草がそよぎ、水が流れ、太陽が世界を照らす。無限に繰り返される、一瞬という永遠。ここはハウルの庭か。一生過ごしたい。
この日の目的地ではないことが非常に残念なので、次回はここに泊まる計画で来ます。必ず。名残惜しい、足りない、と思うくらいがちょうど良いんだ。また次への活力になるから。
ここで水を汲み、先へ。竜門小屋から20分の竜門山は看板が無かったような気がする。さらに大朝日岳が近付いてくる。あの尖ったピークが主峰、大朝日岳だ。
さらに歩き、午前11時半、西朝日岳、標高1,814m。大朝日岳の眺めが最高。目前だ。どうしよう、あと少し(2時間弱)で着いてしまう。なんてあっという間なんだ!!!
その先へ
念願のその日、全てが奇跡のハイライトなその瞬間を堪能する一方で、いまひとつな気分の私がいる。夢は叶った。一人山を縦走することも、避難小屋に泊まることも、好きなことに全集中するために時間を作ることも、全部できてここにいる。いつの間にか、私がやろう、やりたいと思うことは、大体できてしまう私になっていた。そう、達成感が足りないのだ。私にとって、この山旅は「ちょっと難しい挑戦」ではなくなってきていたのだった。
もちろん、まだまだ行きたい場所があるし、まだ見ぬ世界がある。奇跡、感動の体験としては私の山旅はこれから先も果てしなく続くのだろうけれど、挑戦の体験としては今のスタイルではほぼ達成、ということになるのだろう。
さらなる達成感へ、さらなる挑戦の高みへと登る時。もっともっとと求める気持ちが脳内ホルモンのせいだとしても、それでも良い。それも私の人生を演出するためのもの。全てと共に私の最高の人生の山脈を縦走しようではないか。
最大級の歓喜!が訪れるかと思っていたら、違った。しかし、そんないまひとつなこの気持ちこそ、ここ朝日連峰の縦走を、私の挑戦と達成、奇跡と感動体験の高峰として位置付け、夢見ていたことの、ここに向かってきたこれまでのプロセスが既に私を十分成長させてくれていたことの証しなのだろう。
歩いていた時こそそうだったが、今こうして記録に書き起こして写真を一つ一つ眺めて思い出していたら、ものすごく感動している。涙が出るほど。この景色見た人超うらやましいな!って。2ヶ月前の私なんですけどね。という幸せを噛みしめる幸せ。
景色に感動しては写真を撮り、花を見付けては写真を撮り、幸せのため息をつき、何かをもぐもぐ食べ、山ガールの足は止まるばかり。私の目には何が写りどう感じるか。そしてどれだけこの思い出を色濃く心に残すか。速さよりも濃さが重要なのです。
西朝日岳を越え歩いて行くと、先を行くツアーの御一行様が。この日は同宿になるようだ。20名くらいだっただろうか、ガイドさんは3名で、女性もいらした。それぞれ私が入れそうなくらいの大きなザックを背負っていた。すごい。私は荷物の重さで疲労遭難してしまいそうだ。私にガイドは務まらないなぁと思う。
参加者さんは年齢層が私より高めではあるが、皆さんそんなに歩けないというわけではないだろうが、地方の山を避難小屋に宿泊しながら縦走しようというのは、普通はガイドさんを頼んで行こう、と思うものなのだろう。「女性一人でかっこいいね!」と声を掛けてもらった。
頂点へ登りつめる一本の道。草が風にそよぎ、太陽の光で照り輝く。秋の訪れとともに少しずつ始まった草紅葉が淡いグラデーションで山肌を彩る。私は夢の真っ只中にいる。
一歩一歩、風と光と共に、体を前に進める。遥か遠くに見えた大朝日岳が、この日最後の山頂だ。
午前12時半すぎ、この日の宿泊地の大朝日岳避難小屋に到着。既に何名か到着しているようで、私も宿泊台帳に必要事項を記入し、協力金2,000円を納め、2階のスペースに寝床を確保する。
一息ついた後、大朝日岳の山頂へ。13時半、大朝日岳、標高1,870m。日本百名山の一つで、私は55座目。念願の縦走を果たしました。
だんだんと薄雲が広がってきたものの、360度の大展望だ。辿ってきた稜線を眺める。この瞬間はいつも最高に幸せだ。山々が私に自信をくれる。この景色の中をずっと、自分の意志で、自分の足で歩いてきたのだ。遥か遠くに以東岳。
三百名山の祝瓶山方面へも歩いて行ってみたいなぁ。またいつか。
翌日向かう、小朝日岳方面。
力のご飯
30分ほど景色を堪能した後は、小屋に戻る。着替えを済ませていろいろやってもまだ15時。空は雲に覆われてしまったのでもう外に出る気力もなく、かといって夕食にするには早すぎる。そして楽しむほどの食材を持ってきていない。
そんなところに、また救世主が現れる。私の隣にやってきた女子お二人。日本百名山や厳冬期の雪山までやるパワフルなお二人で、ザックから肉や野菜など新鮮な食材が続々出てくる出てくる。そして手際よく調理が進んでいく。
「余るから食べませんか?」と、温かい食事をどんどん分けてくれた。しかもめちゃくちゃ美味しい。お言葉に甘えて…とてもありがたい…!
こんなにおいしいご飯を自分たちでいつでもどこでも作れたら、食べられたら、確かに体力気力が湧き出るな。心も体も温まって生命力が満ち満ち。愛情いっぱい。
私は荷物を最小限にするためにギリギリの食料計画で来ていて、何ならうっすらお腹空いたまま進んでいたところ(全然足りないわけではないですよ、何かあった時のための予備はちゃんと残してある、一人なので特に気を付けるべし)。お湯を沸かしてアルファ米を温め、レトルトの食材を齧って済まそうとしていたところ。温かくて美味しいご飯が食べられるなんて思ってもみなかった。本当にありがとうございました。
今まで行った山の思い出やらこれから行きたい山、好きな山など話に花が咲きました。私も雪山やってみたいなぁ。すごいなぁ。いやいや、私はその前に山ご飯をちゃんとしよう。と思いました。
そうこうしているうちに17時半、夕焼けマジックアワーが訪れる。雲が風に流され滝雲になっていたり。山が雲をマントのようにまとっていたり。とても美しい時間でした。
翌日に小屋の管理人さんとお話しする時間があり、この日の天気は今シーズンで一番だったよ、と言われた。お天気に、大自然の山々に、私を助けてくれた方々に、家族に、私の心と体に。地球に、宇宙に、全てに、大いなる感謝を。
風が強く寒いので、長く外にはいられない。星を見に行く気もしない(!)。日も沈んだことだし、18時頃、早々に眠りにつく。
念願ハイライトの夢の2日目が終了。そして旅は早くもフィナーレ3日目。果たして私は無事に下山し、温泉に入り山形の美味しい旬のご飯にありつけるのか?!Day3へ続く⇒山形朝日連峰縦走3日間【小朝日岳・大井沢温泉】山の恵みの宿 Day3.2024.10.2