白山が呼んでいる
北陸は遠い。関東から行こうとすると、アルプス山脈に阻まれ、太平洋側か日本海側から回り込むようにして行かなければならないから。なので福井や岐阜は実は未踏の地である。
2024年は元日に能登地方で地震があり、復興応援のために花の見頃の初夏に金沢を経由しての白山登山を計画していたが、計画倒れに終わっていた。いつかは、と思っていた白山、今回は山からお呼びが掛かったのだ。
白山(はくさん)は、富士山、立山とともに日本三霊山の一つで、信仰登山の長い歴史を持つ霊験あらたかな山。活火山で、場所は石川県、福井県、岐阜県、富山県にまたがり、標高2,000m級の山々の総称。最高峰は御前峰(ごぜんがみね)の標高2,702m。日本百名山の一つで、花の名山でもある。
休みは残り3日。10/8(火)は全国的に雨マークだったので休養に充て、残り2日。
あまり天気が良い地方が無い中、北陸周辺だけかろうじて晴れマーク。遠いし、2日しかないし、どうしようかと悩んだものの、山全集中期間のフィナーレを飾る山に相応しい堂々たる威厳の霊山白山へ、これは無理をしてでも行かずばなるまい。
ということで、全集中の山チャレンジ第4弾の行き先が決まった。白山への1泊2日の縦走山旅。10/9(水)-10(木)
全集中の末に思ったことはこちら⇒人生は山|幸せの頂点だけやってみた|山ガール日記
◇ 旅の行程 ◇
1 市ノ瀬ビジターセンター ⇒ チブリ尾根 ⇒ 別山 ⇒ 南竜山荘
2 南竜山荘 ⇒ 室堂 ⇒ 御前峰 ⇒ 大汝峰 ⇒ 室堂 ⇒ 砂防新道 ⇒ 別当出合 ⇒ 市ノ瀬ビジターセンター
日本海の空
本当は車で行きたくないのだが、時間が無いので今回は致し方なし。那須から帰宅した翌日の10/8(火)、ルートの確認をして、計画を立てる。山小屋に電話し、宿泊予約を取る。レンタカーを手配し、20時に取りに行く。パッキングを済ませ仮眠、そして日付の変わった午前1時すぎ、出発。
レンタカーは最新車種で快適そのもの、ナビも最新なのでナビを信じて示すルート通りに進む。距離は約500km。想定していた愛知まわりのルートはどうやらどこかで夜間通行止めがあるようで、長野方面に走る。雨は依然強く降り、本当に晴れるのか?心配になる程。
上高地のあたりを過ぎてもなお、ナビが示す残距離は200km以上。運転嫌いなのにまあ大変。途中の休憩を最小限に進む。そこからは西へ西へと行くと思っていたら、なぜか北方面へ…?方向がちょっと違うと思うものの、通行止めやら細い林道やらの関係できっと最良のルートを進ませてくれているのだろうと信じて進むと、あれまぁびっくり!金沢市街へ出てしまったではないですか。
夜は明け午前7時。雨は止み、晴天が広がる。でもおかしいな、もう登山口に着いている時間を想定していたのに…。曇りがちでほとんど晴れないと言われている石川金沢で雲一つない青空を拝めたのでそれはそれで良しとするものの、まだまだ距離があることにテンションは下がる。やっぱり運転はなるべくしない人生を歩むぞと心に誓う。
街からまた山方面を目指し、午前8時すぎ、ようやく登山口の市ノ瀬ビジターセンターへ。

朝一番は雲一つなかった空には雲が。白山も雲に覆われてしまった。身支度を整え、出発。好転することを期待しながら。
この日は標高830mの市ノ瀬を出発し、チブリ尾根を東に進み、別山2,399mへ。登頂後は北上し、南竜山荘までを歩くコースタイム7時間半の一日。
平日のためか、ここからは白山への最短ルートではないためか、私の他に市ノ瀬の駐車場に車は1台。その1台の車の方も、どうやら登山者ではなく何か工事関係者か何かの方だ。季節運行のバスも今シーズンは終了。つまり下りてくる人もいないということだから、この日は山小屋まで誰にも会わないかもしれない。
水と緑
林道の脇を進んで行く。途中工事車両が出入りする道に入らせてもらう際、歩行者がいることを車両に知らせるためのボタンを押す。ゲートにいたおじさんに「ここは車優先だから」と勧告を受ける。さようでございますか。

沢を横切りながら、しばらくは緩やかな登り道。ホコリダケ(きのこ)の密集地帯を発見。胴体に触れると真ん中の割れ目からホコリのような胞子が空気中に飛び出すやつだ。こんなに密集しているとちょっと気持ち悪いが、数時間前まで降っていたであろう雨が地面を濡らし、湿度を含んだ景色がよく似合う。

この辺りは白山エリアでも有数のブナ林だそう。見事。でも色付きはまだ先だ。

雨と沢の湿度で潤いの森。空気が爽やかで緑が鮮やかだ。

豊かな水が流れるから、豊かな森ができる。

尾根に向かって斜面をジグザグに上り上げていく。高度も斜度も上がっていくが、足取りは軽く、コースタイムよりも早く歩ける。車で来たので荷物は最小限、なんと20リットルザックで来れてしまった(いつもは30リットル)からかもしれない。高い山が続いて赤血球が鍛えられたからかもしれないし、筋肉が鍛えられたからかもしれない。でも一番は、すごく良く道が整備されているからだという考察。

午前11時、チブリ尾根に出る頃にはあたり一面すっかり雲に覆われてしまった。どんな景色だったのだろう。リベンジせねば!

チブリ尾根避難小屋に到着。トイレあり、水場なし。小屋の中でザックを下ろし、トイレともぐもぐタイムでしばしの休憩。

外観同様、内部もすごく綺麗にされていて、カビ臭さもない。ここなら怖く無さそう。と思うも、暗闇に包まれたらやっぱり一人ではきっと恐ろしくて恐ろしくて眠れぬ夜を過ごすに違いない。

そして先へ。ここまで出発から3時間。コースタイムより1時間弱早いペース。出発時間が想定より遅れたので少し急いでいたが、大丈夫そうとみる。
雲が一時晴れ、チブリ尾根の姿が青空の下に。左側の眼前に見えるのは御舎利山で、その先向かう別山はあの右のピークかな。

御舎利山へ向かって斜面を上り上げていく。だんだん樹木の背が低くなっていく。晴れているうちにと、はやる気持ちが抑えきれない。

あれは白山?雲で全容が見えないのでよく分からない。

信仰の山
13時前、御舎利山、標高2,390m。登頂しました。休憩にちょうど良さそうな広場だが、そのまま先へ。

御舎利山から別山までの稜線には、石室など霊山ゆえの構造物が出てくる。10分で別山山頂へ。

13時、別山、標高2,399m。青空はいずこへ…。

この日のハイライトはここなはずなので、しばし雲が晴れるのを待つ。御舎利山から大屏風の尾根に乗った途端に風が強く、寒い。雨が降るのではと思う程の空模様。晴れ予報だったが、山の局所的な天気は完全には分からない。
この日の白山ベストショットはこちら。何とか雲の切れ間から。

南の三ノ峰方面。こちらから大縦走もしてみたい。

30分くらい粘った体感だったが、実際には10分で撤退。これはもう一目散に山小屋へ!
寒さと強風と雨の不安でとにかく先へ先へ。大屏風の上の稜線は特に風にさらされ、恐怖。帽子の紐をきつく締める。足と手を力いっぱい動かし、油坂の頭を越え、油坂というトラバース道に入ったところで少し落ち着く。雲の中必死に歩いた。

草原が広がり、良いお天気だと天国散歩な気分なのだろうと想像する。ファンタジーなウサギとか飛び出してきそうな雰囲気の世界。

15時、下りきって赤谷へ。ここまで来ればもう山小屋も近い。

谷を越え登り返していくと、青空が。来た道を振り返る。

15分ほどでこの日の目的地、南竜ヶ馬場の淵に南竜山荘が見えてきた。白山方面、北の空はすっかり青空に。

寒いことに変わりはなく風も多少吹いているが、この穏やかな木道と池塘の景色は天国そのもの。木道を進み、15時半、南竜山荘へ。標高は2,070m。

山小屋の香り
大きな山小屋で、玄関ではお香を焚いて歓迎してくれていた。霊山の雰囲気演出。本日の香りは白檀でございます。

日の光が差し込む寝床。清潔です。枕元にライトもある。夜明け前に真っ暗な館内を歩いたら、廊下やトイレの照明がセンサーライトで明るくなってくれて、灯りには一切困らなかった。素晴らしい山小屋。

窓の外にはベランダとベンチ。ビール片手にゆっくりできる。


荷物を下ろし、南竜ヶ馬場を散策。白山は花の名山で、初夏には高山植物が咲き乱れるのだが、季節は秋。ほとんど出会えなかったが、ここはきっと素晴らしい場所。別山からの稜線の景色も全然見れていないし、今度は初夏に訪れたい場所。

飲用OKの南竜水が蛇口から。ここは浄化槽があるそうで、歯磨き剤や洗顔フォームを使ってもOKだそう。

売店スペースにはコンセントがあり、無料で充電可。電波は繋がらず、山小屋のWi-Fiがあった。しかし通信量がだいぶ少ないのか、ほとんど繋がりませんでした。

この日の宿泊者は私と、ご夫婦2人の合計3人。賑やかそうな室堂ではなく静かそうな南竜山荘にしてみたけれど、ここまで少ないと寒さも相まって少し寂しい。17時、食堂で夕食タイム。配膳してくれるスタッフさんが優しい。

向かいのテーブルに座ったご夫婦と挨拶を交わす。例のごとく食欲はあまりなかったが、おかわり自由だということで、お味噌汁を2杯いただき、おかずもごはんも何とか食べ切る。その間にどんどん日が沈んでいき、空と雲が色彩を美しく変えていく。

夕焼けの視界の端に、可愛い三日月。

宿泊者の食事が終わった後の食堂にはスタッフさんたちが集まり、宴の時間。暗闇が訪れ、一日が終わる。
晴れの天気予報のわりにはスッキリ視界良好とはいかなかったが、無事にここまで来られたことに感謝。翌日の天気予報も晴れだが、日の出予報は△。ご来光は望めないかもしれない。
寝床で荷物の整理をし、布団に潜り込む。外はすごく寒いのに、雨風の心配なくこうして温かく布団に包まれるのは、それだけで幸せだ。
1日目が終了。この白山の山旅も、全集中の山期間も、翌日で終わりだ。果たして私はどんな景色を見て、どんな奇跡に出会うのか。何を思い、この先どこへ向かうのか。Day2へ続く⇒石川【白山・別山】神秘のお日の出、湖と花の霊山 Day2 2024.10.10
