旅の3日目。2日目はこちら⇒山形朝日連峰縦走3日間【以東岳・大朝日岳】紅に染まる天空の楽園大稜線 Day2.2024.10.1
この日は、小朝日岳1,647m、古寺山1,501mを越え、日暮沢登山口へ。下山後は大井沢温泉に入り民宿に泊まる。コースタイム5時間の一日。10/2(水)
◇ 旅の行程 ◇
0 東京 ⇒(夜行バス)⇒ エスモール鶴岡
1 エスモール ⇒ 朝日庁舎前 ⇒ 大鳥口 ⇒ 泡滝ダム ⇒ 大鳥小屋 ⇒ 以東岳避難小屋
2 以東岳避難小屋 ⇒ 寒江山 ⇒ 竜門山 ⇒ 西朝日岳 ⇒ 大朝日岳 ⇒ 大朝日岳山頂避難小屋
3 大朝日岳山頂避難小屋 ⇒ 小朝日岳 ⇒ 古寺山 ⇒ ハナヌキ峰 ⇒ 日暮沢 ⇒ 大井沢温泉
山と珈琲
夜が深まるにつれ、存在感を増していく風。つられて窓がガタガタと吹っ飛んでいきそうな音を立て、安らかに寝息を立てる人々を時折たたき起こしている。補修工事を終えたばかりの小屋なので壊れることはないだろうが、どんなことが起こっても不思議ではない。それが山という大自然。
日の出前になり誰ともなくゴソゴソと身支度が始まる。朝になり天気は少し回復する予報だったが、祈りは届かず辺りは暗雲の中。風は止んだものの日の出は見られなかった。大朝日岳からの朝日。これも憧れだったがおあずけだ。
朝食も隣のお二人が美味しいご飯を分けてくれ、温かいものをお腹に入れられる幸せを朝から噛みしめる。
日暮沢登山口で宿の方との待ち合わせ時間は16時。私はそれまで時間がたっぷりあるので、天気の回復を待ちつつ、午前6時半、先に出発するお二人を見送る。きっとまたどこかで。
主稜線からちょっと外れた、天狗角力取山(てんぐすもうとりやま)というところにある天狗角力取山避難小屋の管理人さんが前日ここに泊まっていて、これからその避難小屋に向かうと言っていた。そこもとっても良い場所だからぜひ今度泊まりに来てね、と。でも一人になることもあるかも。だって。がーん。でもその管理人さんと一緒にいた女性、「私一人で泊まったことあるけど全然大丈夫よ」と。たくましいぜ。
他の登山者さんたちも続々と出発していき、最後は私一人に。午前9時頃まではお天気の回復を待ってみよう、と小屋の中で本を読んだりストレッチしたり過ごしていたら、高校生集団がぞろぞろと入ってきた。皆でワイワイと食事を作ったり漫画を読んだり、とても仲が良さそうだ。なんでも全国から生徒が集まる県内の全寮制の高校で、3年生全員での学校登山とのこと。山登りなんて全員が好きでもないだろうに、誰も嫌そうな感じがしないのは、皆が仲良し(に見える)だからなのか。
「高校生たちが休憩していくのでちょっと賑やかになるけど…下で一緒にコーヒーでもどう?」と管理人さんが声を掛けてくれて、1階の管理部屋の隣のスペースでコーヒーとキャラメルコーンをごちそうになる。お言葉に甘えて。
ここ大朝日岳山頂避難小屋は大江町の山岳会が管理に入っている。朝日連峰の各所にある避難小屋はそれぞれ管轄の市町村の山岳会が管理に入っているとのことで、運営方針もさまざま、ということを聞いた。ちなみにここではTシャツやビールの販売はありません。
学生の頃から山をやっていたこと、山から離れて仕事をしていたら医者から運動しろと言われるほどになってしまったことをきっかけにまた山に戻ってきたこと、周辺の登山道の整備や、小屋に対する思い、管理に対する思いなど。厳しくも優しさ溢れるthe山の男!という感じで、とても素敵な管理人さんでした。交代で来られているそうなので、またタイミングが合って会えるといいな。
これから1週間後の体育の日の3連休などはもう小屋に入り切れない程登山者が押し寄せる、一番人気の避難小屋。早めに着くようにするとか、竜門小屋など別の避難小屋を利用する等、ご利用は計画的に。人がたくさんになるので夜の寒さは問題なし。
午前9時、高校生たちが山頂アタックに出掛けるタイミングで、私も出発。相変わらず雲で真っ白の景色を背負いながらスタート。
視界真っ白と思ったのも束の間、高度を下げていくと、雲の下には晴れ空が。稜線だけ雲の中パターンだったよう。
青い秋
小屋から30分くらいの場所に、美味しい湧水の銀玉水。もっと近くに金玉水があるのだが、わざわざこちらまで汲みにくる方が多いとか何とか。
午前10時、大朝日岳の上まで青空になった。あと1時間回復が早かったらもう一度山頂を踏んだのにな。高校生たちが「ヤッホー!」と叫んでいる声が聞こえる。青春じゃないか。
今年はどこも紅葉が遅い。5年前の映像では9月中旬で紅葉が真っ盛りだった。もしかしたら紅葉が良いタイミングかもしれないと狙ってみた日程だったものの、まだ1週間か、2週間は後だろう。しかし真っ盛りではないからこその移りゆく色彩、そしてこの静けさ。ということで、きっとベストシーズンでした◎
高度が下がるにつれてだんだんと木の高さが増してくる。目の前には小朝日岳。急峻な山肌を見せつけそびえ立つ。この壁を冬にバリエーション登攀している様子を写真に収めたものが小屋に飾ってあった。すごいな。
バリエーションルートではないものの、登山道はこの急峻な壁を一気に登り上げる急坂。この日は下山下山、と思っているのでちょっとした登りがとても辛い。頭ではもちろん登りがあることを理解しているのだが、心と体は納得していない様子。
息を切らしながら一歩一歩、岩の道を登り上げる。日が昇りこの日も暑いが、空の模様と色のコントラストが秋を感じさせる。これは何雲というのだろう。
午前11時、小朝日岳、標高1,647m。大朝日岳をバックに。
緩やかにアップダウンする気持ちの良い稜線を辿って行く。午前11時半、古寺山、標高1,501m。
前日最高の奇跡をくれた主稜線の大パノラマ。この日稜線を歩く人も最高の瞬間を愛でられますように。
沢と水の道
ここ古寺山で展望とはお別れ。高度を下げ樹林帯に突入していきます。最高の思い出を胸に、温泉とご飯、そしてビールへ気持ちを切り替える。
こちらの登山道でも水は豊富で、どこもじゃぶじゃぶ湧いていた。
管理人さんの言っていた通り登山道はよく整備されていて、大きな段差はなくしてあったり、一定間隔で排水溝が設けられていたり(登山道が水浸しにならないように排水する溝)、とても歩きやすい。お子さんもご老人もOK。大江山岳会では古寺鉱泉までの道を担当している様子(だったと思う)なので、初心者さんは古寺鉱泉からの登山がオススメです。
12時、分岐へ。私は日暮沢方面へ行きます。
やはり古寺鉱泉登山口を利用する人が多いのか、ここから先は誰とも会わなかった。いつの間にか周囲は気持ちの良いブナ林になり、緩やかにアップダウンしながらあまり高度が変わらない道が繰り返される。と思ったら急坂現る。ぐんぐん高度を下げながら、植生もどんどん変わり、足元にはどんぐりコロコロ。
分岐から1時間で、沢沿いに下りてきた。ここからはまた1時間、下流に向かい歩き続ければ、日暮沢登山口だ。
ブナ林の歩きやすい道が続くが、やはりここでも虫が多い。顔めがけて激突してくる不快なやつ。目の前で手を振りながら先へ先へと急ぐが、不思議なもので、どうやら動くものめがけて突進してきている様子。立ち止まり少しすると寄って来なくなるのだ。しかしそれが分かったところで今は一刻も早くゴールしたいので、先を急ぐだけだが。
何本も沢が合流してくるので、渡渉ポイントもいくつか。大崩れしている箇所が一ヶ所あり、上流の斜面の方への迂回路へ。アプリの地図上には反映されていないので、道を辿っていくとGPSが反応して警告音声を発してくる。ちゃんと仕事してくれてます。
次第に林道のような道になってきた。清流に掛けられた橋を渡る。
14時、日暮沢登山口、標高620m。到着しました。駐車場には3台ほど車が止まっている。当初泊まろうかと思っていた日暮沢避難小屋。利用されている様子はなく、壁には無数のカメムシ…!中を覗いてみようとドアに手を掛けたものの、ドアが重い&建付けが悪いのか動かないし、カメムシは落ちてくるし、きゃー!退散!ここに泊まるにしなくて本当に良かった…。危ない。
(※事前に調べた感じでは、中は清潔でトイレもあり、たまに冬などは宿泊している記録もアップされているので、危険ではないと思われます。)
小屋前のベンチに腰掛け、お迎えを待つ。水場があったので、靴の底やトレッキングポールを洗う。しかしそれ以外にすることがないので、ひたすらぼーっとする。風に揺れる樹々を見つめながら。
今回の山旅のお供は、乙事主。猪突猛進!で頑張りました。
心のふる里
15時、宿の方(女将さんのお兄さん)が到着。約束は16時でしたが、何ともありがたい。荷物を積み、颯爽と車を走らせる。こちらの方も学生時代に山をやっていたとのことで山の話や、熊の話、釣りの話など、いろいろとお話ししていただき、とても楽しい時間でした。
印象的だったのはまた熊エピソード。絶対に熊に会いたくないという友人と爆竹を鳴らしてから入山(山菜取りかきのこ狩りか)したものの、すぐそこで熊に遭遇した、という衝撃の逸話。だから熊鈴なんて意味ないよ、と言われたけれど…確かにそうだ。
私はバリエーションルートをやらないし採集目的での入山もないので、なかなか山で熊に遭遇するというイメージが湧かないのですが(私は遭わないだろうという謎の思い込み)、改めて熊の存在を身近に感じた話でした。
40分ほどで大井沢へ到着。お世話になる民宿さくおさんへ。ありがとうございました。(注:本来は送迎をやっていませんので、この記録を見て無理なお願いはしないでください。)
女将さんが電話の声の通りの優しい方で、「おかえりなさい」と出迎えてくれた。ただいま~!
ちょうど私と同年代の息子さんがいるそうで、娘のようだと言って温かく接してくださいました。感動。オススメです。
お部屋は2階の和室を洋風にした一室。お菓子やお茶が用意してあり、ホッと一息つく。私は無事に下山しました。
そういえば以東岳避難小屋で会った仙台のお姉さん、大井沢は一度泊まってみたい憧れのところ、と言っていた。風情のある山間の地区です。素敵な民宿の他、温泉、自然博物館、日本一大きな栗の木、などがあります。
荷物を探り、着替えと洗面道具を持って、近くの大井沢温泉湯ったり館へ。3日分の汗と垢を流す。自販機のコーラは我慢、待合のビールも我慢したが、山形名物だというパインソーダだけはつい買ってしまった。
ゆっくりのんびりしすぎて、17時半頃フラフラと宿に帰ると女将さんが帰りを心配して待っていてくれた。そして宴の夕食。
山の恵み
旬のきのこ料理。この日は天然のマイタケが採れた(すごくラッキー!)ので、山形のブランド牛、米沢牛のすき焼き。なめこやヒラタケなど、その他きのこがもりもり。
お米は雪若丸の新米。アケビや蕗、川魚に玉こんにゃくなど、山形の自然の恵みがたっぷりの滋味深いお料理の数々。美味しくてお腹いっぱい。
この日同宿だったお姉さんお二人も山ガール。お二人は山形の方で、この日は月山に行っていたそう。鳥海山で出会い、たまにこうして一緒に山に行くのだそうだ。なんとあの御嶽山の噴火現場に遭遇し、それでも生きて帰ってきた奇跡。山を始めたきっかけや今までの話、これからの話など、山と人生談議に花が咲きました。
そしてお一方はこの民宿の常連さんで、かなりの食通さん。ここはお料理も女将さんの人柄も花丸のお宿でした💮
お二人がこの日宿泊予定だったから私はここに泊めてもらえたのかもしれないので、本当に大感謝だ。
翌日、私はバスを2本乗り継ぎ山形駅へ、そこから新幹線で帰るという予定。朝早く出発予定だったのだが、なんと山形市のお姉さんが帰るついでだからと車に乗せてくれることになり!この山旅は最初から最後まで運と人情に助けられた物語となりました。私ももっともっと人に優しく生きよう。
朝時間ができたので、周辺を散策。近くの湯殿山神社へ。厳かな空気と水が流れている場所でした。
午前9時半、民宿の前で皆で記念撮影をして、出発。途中道の駅にしかわで買い物。美味しかったヒラタケや月山そば、フルーツのお菓子など、山形の名産品を連れて帰ることにする。
午前11時、山形駅到着。お姉さんは車の中でもいろんな話をしてくれて、山形にも独自の百の名山、山形百名山があることや、体の話、家族の話、尽きることのない話題。初対面なのにこんなに盛り上がれるのは、大好きな山という共通点があるから。これも山の恵みだ。
お姉さんはさらに別れ際に、持っていたありったけの飴玉を持たせてくれた。
駅では避難小屋で一緒だったツアーの方に再会。互いの山旅に健闘を祈り合い、新幹線に乗り込む。東京に着くまでの間、ずっとこの旅を反芻してはじんわり思い出の湯船に浸かりため息をつく、を繰り返した。
全方位どこからどう見ても最高に素晴らしい山旅だった。もうこれ以上はないだろうと思う程に。人に恵まれ、天気に恵まれ、健康に恵まれ、無事に行って帰ってきた。私はいまここに生きている。
山集中期間は早くも折り返し。次の山旅は3日後、箸休め的な温泉お楽しみツアー。さぁ、まだまだ行くぞー!