山形朝日連峰縦走3日間【大鳥池・以東岳】幻の湖とブナの秘境 Day1 2024.9.30

夢の日々

全集中の山チャレンジ第2弾は念願の山形・朝日連峰の縦走山旅だ。6年くらい前だろうか、テレビでその稜線を目にして以来、ずっとずっと行きたいと願っていた場所。当時は避難小屋にすら泊まったことがない、シュラフも大きいザックもない、重い荷物も背負えない。ところから、必要な道具を買い揃え、体力作りをし、満を持して昨年計画。するも、なんと予定の数日前に流行の感染症に罹患、予備日としていたところもなんと骨折により断念、ということがあった。

今回はどうやら歓迎してくれているようだ。先の八ヶ岳山旅4日間は晴れ、その後の下界3日間は雨で、またこの山旅期間は晴れる予報。雨の日には下界で仕事をして、晴れたら山に行って、という夢のような日々である。

朝日連峰は新潟と山形の県境をなす南北60km、東西30kmの大山塊で、今回はその主稜線を行く山旅。北側、鶴岡市の大鳥口から入山し、以東岳から大朝日岳まで南下、下山は西川町の日暮沢へ。総移動距離は34km(+ロード12km)、累積標高差は2,900m。

南北八ヶ岳縦走の興奮冷めやらぬ3日後の夜、夜行バスに乗るため東京駅へ。山2泊3日、+1泊は麓の民宿に泊まる、山形・朝日連峰への縦走山旅。9/30(月)-10/3(木)

全集中の末に思ったことはこちら⇒人生は山|幸せの頂点だけやってみた|山ガール日記

◇ 旅の行程 ◇
0 東京 ⇒(夜行バス)⇒ エスモール鶴岡
1 エスモール ⇒ 朝日庁舎前 ⇒ 大鳥口 ⇒ 泡滝ダム ⇒ 大鳥小屋 ⇒ 以東岳避難小屋
2 以東岳避難小屋 ⇒ 寒江山 ⇒ 竜門山 ⇒ 西朝日岳 ⇒ 大朝日岳 ⇒ 大朝日岳山頂避難小屋
3 大朝日岳山頂避難小屋 ⇒ 小朝日岳 ⇒ 古寺山 ⇒ ハナヌキ峰 ⇒ 日暮沢 ⇒ 大井沢温泉

3日間の下界期間は仕事、HP回復のための睡眠、次の山旅の準備と慌ただしく過ぎ去った。その間にやったことの一つ、大井沢温泉地区の宿を手配すること。

この縦走では下山をどこにしようか、というのが一つ問題だった。昨年計画した時は、朝日鉱泉からJRの駅までバスが出ている時期だったのでそこにしていたが、今の時期はバスが無い。その他、古寺鉱泉、日暮沢と、下山ルートは3つ。タクシー利用をできるだけ避けたい(私一人のために動力と費用が掛かり過ぎる、自力感が薄れる)ので、最寄りのバス停もしくは宿まで歩くとしたら、日暮沢から大井沢方面のバス停か宿へ行くのが良さそうとみる。

3ヶ月前の計画時には、3泊目に登山口の避難小屋、日暮沢避難小屋に泊まり、朝のバスに合わせて出発、でも良いかなと思っていた。でも三嶺~剣山の時に避難小屋で一人になった恐怖体験(恐怖!真夜中山奥の避難小屋で…)、もうあれは絶対に嫌だし無理!と、再びのリサーチ。どうやら主稜線上の避難小屋には宿泊者が居そうだが、登山口の避難小屋はとてもとてもとても怪しい。ここはやめておこう。となると、朝しかないバスには時間的に間に合わない、大井沢地区の宿に泊めてもらうしかない。もし送迎でもやってくれたらラッキー(日暮沢から大井沢まで徒歩だと4時間予想)。ダメなら歩く覚悟だ。

手始めに送迎の文字がある宿に連絡を取ってみるもダメ、それから日暮沢に近い方から順番に電話を掛けてみるも繋がらない、一人ではダメ、その曜日はやっていない、などなど、5軒くらいに断られ、だんだん顔が青くなりつつあったところで、OKをくれた優しい女将さんの民宿さくおさん。その日は他にも宿泊者さんが居るから良いですよ、と。登山口までの送迎などはやっていますか…?と聞いてみたところ、やっていない。のだが、女子の一人旅を心配してくれ、なんと山形に住むお兄さんが迎えに来てくれるように手配をしてくれた。恐縮ながらお願いすることに。(注:本来は送迎をやっていませんので、この記録を見て無理なお願いはしないでください。もしどうしてもなら、山小屋か登山道で下山後大井沢温泉に行くという人を何とか探して、お礼を手渡し同乗させてもらうなど。運と人情頼み、これも推奨は致しかねますが…。)

これで出発前の準備は完了。今回は登山バスではなく、都市間を結ぶ普通の夜行バスと路線バスを乗り継ぎ登山口へ向かう。

午前5時すぎ、エスモール(バスターミナル)に到着。朝食を取ったり身支度をしたりして2時間半ほどを過ごし、路線バス(庄内交通)に乗り込む。朝から太陽と青空の良い天気で、だんだん雲が広がる、という予報のこの日。ここから登山口までタクシーに乗っていれば既に歩き始められていただろうと思うと焦るが、自力登山を演出する私のために、公共交通機関でちょっとずつ近付いていく。

乗り継ぎます

30分ほど乗り、終点の朝日庁舎前へ。庄内交通の運転手さんが乗継割引券をくれた。ここから先は市営の乗合バスに。始発のここから乗客は私一人。あってないような途中の停留所。それ以外の場所からも乗り降り自由なのだろう。一人地元のおじさんが何も言わずに途中で乗って途中で降りていく。おじさんからは運賃を手渡し、運転手さんからは缶コーヒーらしき飲料が手渡されるという無言の挨拶を交わしていた。いつもの朝の光景なのだろう。もしかしたらおじさんの特等席にこの日は私が座ってしまっていたのかもしれない。

私は午前9時すぎ、大鳥口で降車。旅館朝日屋さんの前にある赤いポストに登山届を提出。これから歩く登山道にスズメバチがいるぞ!注意!という看板にビビる。

ここ朝日屋さんに宿泊すると、泡滝ダムまで送迎してくれるそうです。

スタート
救世主

この日はここからロード歩き12km3時間の後、泡滝ダム登山口へ。そこから3時間半の登山道を行き、大鳥小屋(タキタロウ小屋)までの一日。9/30(月)

ロード歩き3時間はキツイなぁ、と思い、少し走ってみたが荷物が重く無理。大型トラックが私を追い越していく。どこまで行くの?途中までで良いから乗せてってくれたりしないかなぁ。と、バックパッカーのような気分で歩き出す。

道端の雑草の花や畑を愛でながら進むこと数分、民家の前で作業していたおじさんに出会い、「こんにちは」と挨拶を交わす。私の格好を見て「山登りに行くの?泡滝ダムまで歩く?遠いよ?乗せて行ってやろうか?乗りな。」な、な、な・ん・と!!!救世主現る!!!

登山口の方は行き止まりでおじさんはそこに用があるわけではないのだが、なんと車を出して送ってくれることに。

そこはおじさんの生家で、この日はきのこ狩りに山に入って帰ってきたところだと。昔から山に入っているのでこの辺りの山を知り尽くしていて、熊の話しや、昔はもっと学生の山岳部の子たちがたくさんいたこと、おじさんの半生と現在のお話などをいろいろとお伺いできて、とても楽しい時間でした。

中でも印象的だったのが熊の話で、昔は山に入ったって熊が出てくることなんて無かったし、山中に作った畑や栗の木柿の木だって動物にやられることなんて無かったのに、その原因は50年前に山の上の方の木を大規模に伐採してしまったことにあるのではと。代わりに杉の木を植えてあるが、動物たちの餌にはならないので、その生息域を追われ、だんだんと下に下りてきて、今人里に現れるようになってしまったんじゃないかと。確かに見ると杉の木地帯が多くあり、なんだやっぱり人間のせいか…となった。花粉症も熊も、温暖化も、全て人間の所業。その上熊を悪者扱いしている。なんと罪深い。さあ、私たちにできることは。

ありがとうございました

私を泡滝ダムに送り届け、颯爽と走り去るおじさん。お礼を、と申し出たが、いらないよ、と。感謝してもしきれない、この旅のスーパーヒーロー。私も見習います。

なんとこの区間3時間の予定が30分に短縮!されたので、この日の宿泊地を大鳥小屋より先の以東岳避難小屋に変更。翌日の宿泊地も竜門小屋から大朝日岳山頂避難小屋に変更。実は大鳥小屋でもしかして一人になるんじゃ…と恐れていたので、本当に本当に助かった。

午前9時45分、泡滝ダム、標高520mを出発。駐車場があり、仮設トイレもある。釣りで入山する人も多いようで、後から聞けば大鳥小屋は釣り人がよく利用するそうだ。

泡滝ダム
登山口
ブナが育む命

沢沿いの道を歩き始める。山から溢れる水で潤いがあり、カエルなども飛び出してくる。

カエル

夏の暑さは残り、歩いていると汗が出てくるが、滴る噴き出るではなく、空気は秋の気配。爽やかさが増している。気持ちの良いブナ林を歩いて行く。が、虫が多い。顔めがけて激突してくる不快なやつ。たまらず目の前で手を振りながら先へ先へと急ぐ。

ブナ林

ブナ林というと東北のイメージだが、ここ朝日連峰のブナ林もお見事。ブナの大樹の下ではさまざまな命が育まれ、それが山全体の生態系を作り上げている。まだ紅葉には早いのだが、ちらほらと黄色く色づいた葉っぱや、わずかに残るお花、木の実など、目に映るさまざまな自然を愛でながら進む。

リンドウ
サワフタギ
山の奥へ

水源は大鳥池だろうか。そうに違いない。間違いなく私は進んでいる!と自分を励ましながら。

豊かな流れ

湧水が豊富で、飲み放題。水筒を持たなくても良いくらい次々にポイントが現れる。

ジミヤチ清水

下りてくるのは登山者か釣り人か、はたまた小屋の管理人さんか。たまに人とすれ違うが、この時間から登っているのはどうやら私だけのようだ。

ブナ林
吊橋

泡滝登山口から大鳥池まで、10分のいくつ、という看板があり、励みになる。2番目のは見逃した。

冷水沢
5/10

午前11時、七ツ滝沢橋までは比較的緩やかな登り。歩きやすいのでどんどん進む。

七ツ滝沢橋
清流
6/10
7/10

この辺りから傾斜が少し出てきて、七曲りと呼ばれるつづら折りの登りポイントへ。

飲めます

まるできのこの山が食べ放題。いや、食べられるかは素人には分からないので要注意。

きのこの山

きのこは本当にたくさんの種類が生えていて、ブナ林が育む潤い恵みの森であることがよく分かる。

ソックリ

天気予報通り、だんだん空が雲に覆われてくるので、自然と早足になる。8と9はすっ飛ばして10に到着。

10/10
幻魚の湖

12時、標高966mの山上湖、大鳥池の湖畔に建つ大鳥小屋(タキタロウ小屋)へ。大きな小屋だ。中を覗いてみると、綺麗だし怖い感じはしない。トイレともぐもぐタイムでしばしの休憩。

大鳥小屋
内部

キャンプ場になっていて、トイレや水場が整備されている。水を汲んで出発。

大鳥池

タキタロウはここ大鳥池に生息していると言われている伝説の巨大魚の名前。私はほんの少ししか湖畔を歩かなかったので何も見ていないが、釣り人にとってはロマン溢れる地に違いない。

幻の魚

ここ大鳥池から以東岳へは2ルート、直登コースかオツボコース。展望が良いのは途中から稜線に出るオツボコース。とあったので、左へ。

いざ出発

ここからはぐっと斜度が増し、しっかり登っていく。スズメバチポイントはいつの間にか通り過ぎていた。下ってくる登山者さんと話しをすると、皆さん泡滝ダムから日帰りで以東岳ピストンとのこと。コースタイムで13時間半。皆さん相当の健脚だ。

高度が上がるにつれて、紅葉も少しづつ色濃くなっていく。

黄色
赤色

分岐から1時間ほどで見晴らしの良いポイントへ。まだ青空がかろうじて見えている。

ビューポイント
錦の天上世界

ここからは眺めの良い稜線歩き。すぐそこに見える丸いピークがオツボ峰?いえいえ、全然もっと先。この稜線はおおざっぱな地図ではあまり分からないが、小さなピークを登って下りて、を何度も何度も繰り返す。ずっと、名前が付いているピークは本当にどれ?まだ?となりながら進んで行く。

しばらく進むと大鳥池があんなに下に。以東岳から見ると広げた熊の毛皮のように見えるそうだが、間に合うか。雲が立ち込めてきている。急げ!

大鳥池

美しい山肌。紅葉にはまだ1週間か、はたまた2週間くらい早い。それでも色付きが嬉しい。

やや紅葉

行く先が雲に覆われて展望が無くなってきた。笹原の天空の世界に足を踏み入れる。

笹原
砂原

お花も最後の力を振り絞って咲いているものがちらほら。

ウメバチソウ

ナナカマド。実だけ赤くなり、葉っぱは焼けてしまっている。夏の暑さのせいでこうなっているものをよく見る。温暖化の影響で植物たちも相当なダメージを受けている。秋の紅葉が見られなくなる日も近いかもしれない。

ナナカマド
マツムシソウ

そして、ここピークなん?という明らかに途中の斜面っぽい場所でオツボ峰の標柱に出くわす。14時半、雲により展望は無し。

オツボ峰

そしてこの日の最後のピークと宿泊地である以東岳を目指す。雲の中から現れるそれっぽいピークを「もしかしてこれ?」と写真に収め、近付き「いや違った」と繰り返すこと幾千。

ニセピーク

歩きやすい道が続くが、ゴツゴツの岩場が出てきたり、トラバースのややきつい斜面が砂で滑りやすかったり、油断は禁物。

岩々のところも

15時半、以東岳、標高1,772m。日本二百名山の一座。晴れていれば大鳥池や翌日向かう大朝日岳などの素晴らしい展望の場所だ。辺りはすっかり雲に覆われてしまった。微妙に風も強く、雨が降ってきてもおかしくない雰囲気。晴れ予報で出発してきたのに、なんだか不安な天気だ。ここは翌日も日の出を見るために登って来るので、この日はこれくらいで勘弁してあげる。

登頂!

以東岳から下ること5分、この日の宿泊地、以東岳避難小屋へ。2017年に新築された綺麗な避難小屋で、管理人さんもだいたい駐在している。この日は20人くらい宿泊者がいて、私が最後から2番目の到着だった。

以東岳避難小屋

協力金2,000円、バイオトイレで、水場は少し離れているがある。美味しい碧玉水。私は大鳥小屋から汲んできた水で足りたので、行かず。更衣スペースもちゃんとあった。避難小屋とはいえ、Tシャツも手拭いも、ビールもペットボトル飲料も販売している。営業小屋のような手厚さ。

おつかれさまでした
Tシャツかわいいな
山小屋の灯

ツアーの団体さんや、この山域の常連さんたちが、それぞれ夕食を調理し食したり、本を読んだり、夕日を狙って外に出たり。思い思いの時間を過ごしていた。

私は汗に濡れた服を着替え、小屋の中と外を探検し、食事を取った。ここは缶が各自で持ち帰りになるので、ビールは控えておく。

立派なカメラと三脚で山の撮影をしていたソロの仙台のお姉さんは、月一でこの山域に来るんだ、と話してくれた。今回はここに2泊し、翌日下山するとのこと。その時々で稜線上の避難小屋を拠点に周囲を歩くそうだが、小屋で一人になったことはないと。常連さんが多く、とても人気の山域。もしかして一人になるかも、なんていうのはこの主稜線上では全くの杞憂だった。

隣になったおじさんはこの辺りの山岳会の方のようで、ゴロビツの水場(うろ覚え、すみません)の看板を立てたのが私、それが自慢、と話してくれた。

寝具も食料も持参して、シャワーも電源も何もない山小屋に泊まってまで山を歩こうというのだから、皆さん相当の変態(誉め言葉)仲間。自然に会話も弾む。

その会話の中で、一人のおじさんが言っていた「私たちはもうeveryday sundayだから。」という言葉。仕事は引退していて、いつでも好きな時に山に行ける、そしていつ帰るかも自由、という意味だった。この時はただ羨ましいなぁとだけ思ったが、全集中の後に思い出す大事なキーワードとなるのである。ブログはこちら⇒人生は山|幸せの頂点だけやってみた|山ガール日記

立ち込めた雲が晴れることは無く、いつの間にか夕日は沈み、夜の帳が下りた。東北の山の夜は寒いかもと思い3シーズン用のシュラフにインナーシーツ、上下ダウンの防寒着も持ってきたが、避難小屋の中は人の熱気で全く寒くない。半袖でシュラフに潜り込む。持ってきたイナーシャのXフレームエアーマット、今回で出動6晩目にしてエアー漏れ。数分でぺっちゃんこに。この本体だけでも高いのに、さらに空気入れモーターまで購入したのに、とても悔しい!小屋に置いてあったシルバーのウレタンマットを拝借し、寝床を作り直す。おじさんの大きなイビキには耳栓で応戦。快適に眠れましたとさ。

救世主がいたおかげで予定は変わり、大きく前進したこの日。もう同じ行程は辿れないであろう、幻の山旅だ。

翌日はこの山旅のハイライトオブハイライト、主稜線の縦走。以東岳から大朝日岳までを歩く一日。恋焦がれたその日が、その稜線が、遂に遂に私の目の前に。果たしてどんな絶景が私を待っている?どんな気持ちが湧き上がってくる?!Day2へ続く⇒山形朝日連峰縦走3日間【以東岳・大朝日岳】紅に染まる天空の楽園大稜線 Day2 2024.10.1

頑張るぞ🌟